食の安全 常識・非常識

2015年6月24日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

飽和脂肪酸の摂取量増加は軽視できない

 日本人の死因の第1位は「悪性新生物(がん)」です。2014年は37万人が死亡したと推定されています。2位は心疾患。死亡の推定数はかなり減って19万6000人。冠動脈疾患の発症率は欧米の3分の1から5分の1と言われています。こうした状況から見ても、アメリカに比べてトランス脂肪酸規制の優先順位は、下がってくるのです。

 加えて、飽和脂肪酸問題があります。国内で、トランス脂肪酸を低減した製品で飽和脂肪酸含有量が増加するという「トレードオフ現象」が起きていることを、前回書きました。飽和脂肪酸も、冠動脈疾患のリスクを上げることが知られています。

 日本人はもともと、飽和脂肪酸の摂取量が多いのです。厚生労働省が策定する日本人の食生活の“バイブル”的存在の「日本人の食事摂取基準2015年版」によれば、日本人の飽和脂肪酸摂取量の中央値(多い順に並べてちょうど中央に位置する人の摂取量)の、総エネルギー摂取量に対する割合は、男性で6.6%、女性で7.6%です。

 食事摂取基準は、飽和脂肪酸の目標量を7%以下としています。女性では半数以上が、この基準を超えてしまっています。

 一方、食事摂取基準は、トランス脂肪酸については目標量を定めていません。「工業由来のトランス脂肪酸の最大摂取群は、最小摂取群に比較してCHDの相対危険が1.30倍であり、喫煙、糖尿病、高血圧症など他の主要な冠動脈疾患危険因子のオッズ比が日本人で3〜8 倍程度であることに比較すると、リスクはかなり小さい」と記述しています。栄養学の専門家は、日本人にとっては飽和脂肪酸の方が大きな問題である、と判断しているのです。

公衆政策は、コストとベネフィットの検討が必要

 トランス脂肪酸の規制について検討して来た消費者委員会も5月、「とりまとめ」を公表しました。企業による自主的な削減を求め、消費者への情報提供、脂質を過剰摂取しないバランスのよい食生活の推進等を強調しています。ただし、今後、トランス脂肪酸の摂取量に増加傾向が認められる場合は、トランス脂肪酸含有量の上限値の設定や表示の義務化などを検討するとの姿勢です。

 つまり、トランス脂肪酸にリスクはあるにせよ、日本人の摂取量は少なく、公衆政策の優先順位としては現状、高くない、という判断が大勢なのです。

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