食の安全 常識・非常識

米国のトランス脂肪酸“禁止” 日本が振り回される必要はない

松永和紀 (まつなが・わき)  科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ライターに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008受賞。2011年4月、科学的に適切な食情報を収集し提供する消費者団体「Food Communication Compass(略称FOOCOM=フーコム)を設立し、「FOOCOM.NET」を開設した。

食の安全 常識・非常識

農薬や食品添加物、遺伝子組換え作物から食品偽装、さらには放射線や生肉問題まで、定期的に、頻繁に、世間の話題にのぼる「食の安全」に関するあれこれのニュース。しかし、それらに関する報道は、残念ながら消費者に誤解を与えるようなものが少なくない。食の「安全」と「リスク」を正しく理解するために、科学に基づいたニュートラルな情報や問題が起きた社会的背景などを解説し、消費者が勘違いしている食の「常識・非常識」に切り込んでいく。

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 公衆への規制は、その効果とコストを天秤にかける必要があります。国が禁止したら、企業は代替法への切り替えコストを強制されます。国も、国民に普及啓発しなければならないし、本当に禁止措置が守られているか調べる必要も出てきます。禁止にはそれなりのコストがかかります。そのコストがかかっても、アメリカのように大きな見返りがあればいい。

 たしかに、トランス脂肪酸は日本人にとっても、摂取するメリットがなく、量を減らした方がいい物質です。しかし、現状の日本人大多数のトランス脂肪酸摂取量は少ない。国民全体に“禁止令”を出してごく一部いた高摂取の人が改善されたとしても、公衆政策として米国ほどの効果、利益が得られないのは確実です。

 結局、トランス脂肪酸対策に多額の国家予算を割くより、禁煙や高血圧、糖尿病などを防ぐ対策の方が、効果が高い。飽和脂肪酸が増えるのも心配。そこまで考えると、軽々しく「アメリカが禁止したのだから、日本も禁止」とは言えないし、その単純思考が国民にとって得策ではないことも、理解していただけることでしょう。

個人のマーガリン忌避は、意味がない

 では、個人の対策は?「平均値なんてどうでもいい。とにかく、私は子どもに有害な物質を食べさせたくない」と仰る方もいることでしょう。

 マーガリンや揚げ物、ケーキ等、目の敵にするのは個人の自由。でも、日本のマーガリン類は、トランス脂肪酸の含有量が大きく低減されています。たとえば、雪印のネオソフトは、トランス脂肪酸の含有量が製品10gあたり0.08g。熱量にするとわずか、0.72kcalです。1日に2000kcal摂取する人で、ネオソフト10gを食べたときの総エネルギー摂取量における割合は、0.04%です。日本生協連のコーンマーガリン10gのトランス脂肪酸含有量は、0.04gです。ネオソフトと同じように計算すると、総エネルギー摂取量における割合は、0.02%です。

 こんなものを目の敵にしても、なんの意味もないことは、お分かりですね。トランス脂肪酸が多いとして以前に問題視された食品は、マーガリンに限らずパンや菓子等も、低減が大きく進んでいます。これからも、進むでしょう。これは、企業の自主的な努力。なにせ、日本の企業は、消費者の批判にはめっぽう弱い。努力しています。

 非難するなら、今のデータで語らなくちゃダメ。でも、そうではない情報が残念ながら、とくにネットメディアにはあふれています。

 では、「トランス脂肪酸も飽和脂肪酸も怖い。だから、脂質抜きの生活に」と走る?それはまずい。脂質のなかには、人が摂取しなければいけない必須脂肪酸も多く含まれています。それに、脂質は重要なエネルギー源でもあります。日本人は、肥満の人がいる一方、栄養摂取が少なすぎる痩せ問題も深刻です。

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著者

松永和紀(まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ライターに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞2008受賞。2011年4月、科学的に適切な食情報を収集し提供する消費者団体「Food Communication Compass(略称FOOCOM=フーコム)を設立し、「FOOCOM.NET」を開設した。

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