WEDGE REPORT

2015年8月4日

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村中璃子 (むらなか・りこ)

医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

この問題についてレポートしたWedge2014年12月号の記事を再掲する。

 米ユタ州のソルトレイクシティに本拠地を置くバイオファイア・ディフェンスの検査パネル「バイオスレット−E」が、2014年10月25日、米国食品医薬品局(FDA)よりエボラウイルスの臨床診断用キットとしての緊急認可を受けた。同社が2014年10月18日に緊急認可を申請してからわずか1週間後の出来事。アメリカ政府の対応は速い。

防護服を着てエボラ疑いの4歳の少年に向かい合うリベリア保健省職員(写真:GETTYIMAGES)

緊急認可された検査キットは米軍用

 バイオファイア社は1990年、ユタ大学のPCR技術をライセンス化してスピンオフした企業で、アメリカ保健省からの資金援助を受け、環境中のバイオハザード検出機器を開発してきた。2003年には米軍より「共同生物因子同定診断システム(JBAIS)」の開発契約権を獲得。より精密で広範なバイオハザード検出機器の開発を約束した。11年に承認された「レイザーEX」は、ラボレベルの精度をもって生物学的脅威を検索できる手持ちサイズの画期的なマシンで、なんとバッテリーでの稼働も可能。現在も国防省との間に、8年間2400万ドルの契約がある。

 大学から民間へと出ていった技術に、国が資金提供して軍事機器開発を進めるアメリカ。おそらくは、開発資金の他、エボラや炭疽菌など高い危険性をもつ病原体そのものや、それらを扱うための安全基準を満たしたラボの使用なども国が準備して開発を進めてきたのだろう。アメリカではすでに10年以上もの間、産官学が一丸となって感染症・バイオテロ対策に取り組んでおり、今回はその過程で生まれた軍用機器が医療用に緊急認可された。感染症はまさに軍事の問題であり、医療の問題であることがうかがえる。

 バイオファイア社以外に少なくとも5社が緊急認可の申請を行ったというが、同社のキットだけが取り急ぎ承認された。民間の検査キットとしての認可は初めて。バイオファイア社のカーク・ライリーCEOは「国防省やFDA、その他政府機関との長年の協力の賜物」としている。

 エボラかどうかを判断する簡易検査のPCRは通常、結果が出るまでに半日から1日程度かかる。しかし、「バイオスレット−E」を、トースターサイズで総重量9キロというこのバイオファイア社の検査機器「フィルムアレイ」にセットすれば、作業者の感染のリスクを減らしつつ、たった1時間でエボラかどうかの判断がつく。それは、手動で行う煩雑な作業をすべて自動化・閉鎖化しているから。パネルと検体をセットするための作業時間は約2分。今回、緊急認可されたパネルで、エボラ、炭疽菌、マールブルクなど計16種類の危険な病原体の存在を一度に調べることができる。

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