フィルムアレイはすでに全米で300の病院が、ニューヨークとニュージャージだけでも116の病院が所有している。よって、「バイオスレット−E」が各病院に行き届くだけで、一気に「エボラ検出網」が広がることになる。緊急認可前ではあったが、アメリカで最初のエボラ患者が訪れたダラス・プレスビテリアン病院にも、この機器はあったという。バイオファイア社によれば、現在パネルの在庫は800個ほど。
(出所)米バイオファイア、ディフェンスのウェブサイト
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これまで、FDAが開発中の製品を緊急認可した前例はあまりない。しかし、13年のパンデミック・オールハザード事前準備法で、公衆衛生上の危機に際しては、単純な危機対応をするのではなく「積極的に備えること」を定めた。その中には、備えに必要な開発中の製品の審査基準を緩めることを盛り込んでいる。今回の緊急認可も同法を受けての措置であり、現在流行中のエボラ・ザイール株に限り、アウトブレイク終息の宣言が出るまでの期間の使用認可となっている。アメリカの感染症・バイオテロ対策予算は、重症急性呼吸器症候群(SARS)の起きた03年以降、毎年50億ドル以上計上しており、13年度の合計額は55億400万ドルにのぼる。
76年からアフリカ大陸の中だけで小さな流行を繰り返してきたエボラ出血熱。14年、この病気は中央アフリカから密林を越えて西アフリカへと場所を移して爆発的に流行し、遠くアメリカ大陸にまで上陸した。これまでの日米の対応を改めて振り返り、問題点を探ってみたい。
渡航禁止は不要
科学的には正しいオバマの判断
終息しないエボラ出血熱の不幸中の幸いは、先進国で感染し、発症した症例が、未だに医療関係者に限定されていることだ(2014年11月11日現在)。エボラ出血熱は、感染しているが症状の無い潜伏期には感染力がない。また、せき・くしゃみなどの飛沫で感染するインフルエンザとは異なり、患者と同じ店や飛行機に居合わせたり、町ですれ違ったりすることもリスクではない。発熱しか症状のない段階での感染力は、ゼロではないが低いとの見方も強い。こう考えると、他人との距離が遠く、医療制度の整った先進国において、一般人の間でエボラが流行する要素は少ない。
「事態が収束する前に、さらなる感染者の隔離がアメリカで行われるのを見るだろう。しかし、我々は西アフリカと距離を置くことは出来ない。渡航禁止令は事態を悪化させるだけだ」
オバマ大統領は2014年10月17日の土曜日定例演説において、議会筋の要求を退け、リベリア、シエラレオネ、ギニアとの間に渡航禁止令を出す意向の無いことを明らかにした。検疫は完璧ではないという前提に基づき、国内におけるエボラ患者の早期発見による封じ込め政策に切り替えたのだと見てよい。
米軍4000人という大規模支援を送って、リスクの元である西アフリカの流行をたたく。感染者を早期発見・早期治療し、「罹っても回復する」という実績を積み上げる。それにより、医療者の不安も緩和され、医療者のトレーニングも進んで患者の扱いにも慣れていく状況を作るという目算だろう。
実際、9月30日に検疫をすり抜けた全米初のエボラ患者が確認された際には、この患者をケアしていた2名の看護師が二次感染していた。しかし、10月24日にニューヨークでエボラと確定したリベリア帰りの医師のケースでは、今のところ医療者への二次感染は報告されていない。また、診断が遅れた最初の症例以外は、全員が回復もしくは安定した状態にある。エボラ政策で批判を受け、民主党は中間選挙で敗北したが、オバマの渡航禁止不要との判断は科学的には間違っていなかった。バイオファイア社製検査キットの緊急認可は、オバマの「早期発見戦略」に沿ってなされたもの。ウイルスサンプル数不足のため臨床診断での使用は未認可だったこのキットは、これから、いきなり実用の場で精度検証を重ねていくことになる。