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2015年8月5日

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村中璃子 (むらなか・りこ)

医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

積極的に備えず
ただ消え去るのを待つ日本

 感染症が限定した地域で流行するのではなく、先進国を含めてグローバルに流行することを「パンデミック(世界的大流行)」と呼ぶ。歴史上、パンデミックを起こしたウイルスは、インフルエンザだけ。09年の新型インフルエンザでは、WHOがパンデミックを宣言して世界を不安にさせたが、予測されたよりも「致死性が低い」というウイルスの性質に助けられ、大きな被害はなかった。

エボラ出血熱 アウトブレイクの歴史 (出所)WHO
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 エボラ出血熱の致死性は高く、すでにアフリカを中心に多くの死者を出している。しかし、飛沫で流行しやすいインフルエンザとは異なり、エボラは体液に直接触れることでしか感染しない「流行しづらい」病気。09年の新型インフルエンザが「致死性の低さ」に助けられたように、エボラもまた「流行しづらさ」に助けられ収束していく可能性も高い。

 とはいえ、エボラは比較的遺伝子変異を起こしやすいとされるウイルスでもある。今後、遺伝子変異など何らかのきっかけを得てパンデミックを起こす可能性を完全には否定できない。パンデミックでは最悪の場合、医療制度が崩壊するだけではなく、社会全体が機能を失う。そうなれば、エボラはもはや医療にとどまらず、地震や原発事故、戦争のような治安の問題となってくる。世界はこれまでもパンデミックを、防衛省をはじめとする各省庁が連携すべき「国防の問題」として準備してきた。

 各国は、西アフリカ諸国にエボラ収束に向けた積極的援助を開始した。もちろん、火の元を絶つために国際社会が連携するという意味もあるが、この動きを冷静に見てみると興味深いことが言える。

 ひとつには各国が軍を伴う援助を展開していること、もうひとつは援助の過程で、各国がウイルス検体を集めようとしていることだ。プライマー、新薬、ワクチンなど、エボラに有効な対処法を開発するためには、ウイルスそのものの入手は必須だ。米CDCは過去のアウトブレイクにおいても多くの検体を採取し、軍用ヘリで自国へ持ち帰っているというが、解析されたウイルスについての詳細は機密で公開されていない。

 現在西アフリカでは、アメリカからは米CDC単独、米CDCと国立衛生研究所(NIH)の合同チーム、米軍の研究所の3つの形で、欧州からはカナダ、フランス、イギリス、ドイツなどの共同チームが、アフリカからは南アフリカ、ナイジェリア、ダカールのパスツール研究所など、計13カ所のラボが稼働している。検体処理能力は、1日に平均して50~100検体とのこと。

 また、2014年11月3日付の「サイエンスインサイダー」のニュース速報によれば、中国もシエラレオネ・リベリア・ギニアの西アフリカ3カ国に200人の医療者とアドバイザーを派遣。中国疾病予防管理センターの高福・副センター長は、シエラレオネにモバイルラボを設置し「1日に40から60の採血を実施している」と電話で答えたという。シエラレオネでは、すでに03年のSARS時に活躍した30人の医療者が北京第302軍病院から派遣されて、検疫の隔離センターを運営しており、数週間のうちに、中国人民解放軍からさらに480人の医療者が派遣される予定だ。

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