この問題についてレポートしたWedge2014年12月号の記事を再掲する。
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ウイルス検体共有
仲間外れのニッポン
検体を廃棄することでもうひとつ問題になるのは、「プライマー」と呼ばれる、エボラウイルスの遺伝子情報に基づいて作ったPCR検査キットのアップデート。エボラは遺伝子変異を起こす可能性があるため、患者が出れば、必ずウイルスの遺伝子情報を解析し、必要に応じてプライマーを書き換えていく必要がある。
いま日本にあるエボラのプライマーは、米疾病予防センター(米CDC)の協力で開発され、00年と08年に、実際にエボラウイルスを検出できるかどうかを調べるテスト(精度検証)をパスしたもの。しかし、08年以降に流行したエボラウイルスについての精度検証は、一度もされていない。今回流行しているエボラ出血熱ザイール株を含め、いま日本が保有しているプライマーで本当にエボラを検出できるのかは不透明だ。
エボラのような人類の脅威となる病原体の場合、ウイルス検体の共有は、重要な国際的課題でもある。プライマーの精度検証に必要なのはもちろんのこと、治療薬やワクチンの開発などにも不可欠である。そして、このような国際的ネットワークへの参加には、レベル4ラボを持つことが求められる。
01年の9.11米国同時多発テロ事件や炭疽菌事件を受けた先進各国は、世界的な健康危機管理とテロリズム対応について連携のため、保健相レベルの会合「世界健康安全保障イニシアティブ(GHSI)」を発足させた。GHSIには実務レベル(局長クラス)の〝ジーサグ〟(GHSAG)と呼ばれる作業チームがあるが、レベル4ラボを持たないメキシコを除いては、日本だけが、このウイルス共有ネットワークから外れている。
日本で使用されるエボラウイルスのプライマーを開発した、感染研の森川茂・獣医科学部長は、「分離されたエボラウイルス等を廃棄すれば国際社会の非難を浴び、笑い者になる」と警鐘を鳴らし、レベル4ラボ稼働の重要性を改めて指摘した。