企業にとっての最終兵器
知財を使いこなす方法とは?

「知財スペシャリストが伝授する交渉術 喧嘩の作法」著者インタビュー


中村宏之 (なかむら・ひろゆき)  読売新聞東京本社調査研究本部 主任研究員

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。福島支局、立川支局、経済部、政治部、ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスクを経て2014年より現職。著書に『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』『御社の寿命』、(いずれも中央公論新社)など

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※告知 2015年9月3日(木)19時から、八重洲ブックセンター本店8階ギャラリーにて、久慈直登さんの刊行記念講演会を行います。参加希望の方は、八重洲ブックセンターにて『知財スペシャリストが伝授する交渉術 喧嘩の作法』を購入し、参加整理券をお受け取りください。先着80名様となっております。詳しくはこちらへhttp://www.yaesu-book.co.jp/events/talk/7322/

 激しくなる一方の世界の産業競争の現実は、フェアプレーばかりではなく、何でもありの世界である。そうした中で知的財産は直接相手に行使できる唯一の武器であり、究極的には相手の企業活動まで止めることができる最終兵器ともいえる。

 それを使いこなすには日頃からの訓練と指導・学習が必要であることはいうまでもない。またいかに戦略的、効果的に活用するかが企業の力量を決めるといっても過言でない。ホンダの知的財産部長を長く務め、現在、日本知的財産協会の専務理事を務める久慈直登氏がこのほど「知財スペシャリストが伝授する交渉術 喧嘩の作法」(ウエッジ)を上梓した。知財を活用していかに戦い、勝つべきなのか。久慈氏にそのポイントを聞いた。

――本書を執筆された動機はどんな点だったのですか。

 企業人はなかなか知財全般の本は書きにくい。自分の企業のやっていることはすごく詳しくわかるけれども、それが産業全体の話になるかといえばそうはならないからです。知財の本は学問的な話なら、全体を書く人は学者でいますけれども、企業人の本はあまり出ていない。産業界のやっていることをちゃんと、こういうことなのだと書いて、日本企業の知財の若手の人たちに経験談として伝える必要があるなと思いました。それが一番大きな動機です。

――久慈さんはホンダで通算何年ぐらい知財に関わられたのですか

 35年間ほぼ知財に関わりました。そのうち10年ぐらいは研究開発にあたっていた部分もあります。自分が海外に出たことはありませんが、毎月一回、海外出張していました。また後輩諸兄はたくさん海外に送り出しました。

――35年間で日本の知財をとりまく環境は変わりましたでしょうか

 変わりました。以前は、情報が世界であっという間に拡散したり、情報が入手できる状態ではありませんでした。こつこつと発明を育てて、特許出願をしてという、非常に狭い範囲の限られた領域でした。特許出願しても、情報が世界的にすぐ伝わるわけでもないので、やはりマインドが職人的になってしまう。それが今は、情報をどう扱うかという、情報屋さんみたいな仕事になっています。情報屋は世界にアンテナを張り巡らして、世界で何が起きて、技術の流れがどうなっているかを常に把握する。そうした情報を知らないと知財の仕事にはならないという感じですね。

――まさに情報戦ですね。これはインターネットの出現が大きいのでしょうか

 大きいです。情報処理は、キーワード検索みたいなものを含めてですが、大量のデータをざっと見渡して一気に対応するというイメージです。世界での技術の動きがいまこうなっているんだ、ということがわかる仕事になっていて、知財の本質的な仕事はそこにシフトしたということです。

――それは戦う武器として知財が意識されたということですか

 そうです。新興国の企業はもともと出遅れていますから、なんとかして追いつくためには情報がすごく大切になっているのです。それがいま、特許出願とか知財というツールを使うと一気にキャッチアップできてゆくということが彼らもわかってきた。そうすると先進企業が「そうはさせない」という姿勢をとるには、ここでも情報戦みたいなものをすごくやらないといけなくなっているんですね。

――それはまさに情報ウオーズというか、攻防戦が繰り広げられている訳ですね

 冷戦の頃のスパイは、情報をどう取ってくるかが仕事でした。その連中がいま知財の技術情報にシフトしているという点で典型的な情報戦になっている。それはネット上もあるし、ノウハウを盗みに来る産業スパイでもあるし、人間対人間でもある。

――そういう意識は、日本の企業は「性善説」に寄りすぎていて、結構ナイーブだという趣旨の指摘を本書でもなされています

 はい。日本は戦後すぐ、早いタイミングで頑張ってキャッチアップして、アメリカ、欧州と同格になったんですね。その頃は知財を情報戦のツールとして扱うということはなかった。お互いに知財を尊重して、敬意を払ってやりとりをしていた時代ですから。日本はキャッチアップした後も、当時の「優等生」のやり方をいまだに続けてしまっているところがあります。マナーよくやっている。日本社会はそうですが、でも世界はずるいですから

――どこがどうずるいのでしょうか

 特許は権利としてあるから、第三者が権利をもっているとわかったときには、ちゃんと相手に「使わせて欲しいんです」と言うのが優等生ですね。しかしそうでない者もいる。第三者が特許をもっている。これは研究開発を相当お金かけてやった成果だから、これをこのままこっそり使っちゃおう、言われなければ黙っていればいい、言われたら裁判にもちこんで時間を稼げば、その間商品がうれるからいいんだと。こうした判断するのはずるい方の判断といえます。

――つまり、ずるい方が世界的には主流なのでしょうか

 それが主流になっているといえます。

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「オトナの教養 週末の一冊」

著者

中村宏之(なかむら・ひろゆき)

読売新聞東京本社調査研究本部 主任研究員

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。福島支局、立川支局、経済部、政治部、ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスクを経て2014年より現職。著書に『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』『御社の寿命』、(いずれも中央公論新社)など

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