WEDGE REPORT

2015年9月4日

»著者プロフィール
閉じる

佐々木正明 (ささき・まさあき)

産経新聞リオデジャネイロ支局長

1971年岩手県生まれ。大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)卒業。産経新聞社に入社、神戸総局、横浜総局、大阪本社社会部等を経て2014年10月までモスクワ支局長。著書に『シー・シェパードの正体』(扶桑社新書)、『恐怖の環境テロリスト』(新潮新書)

 9月1日、和歌山県太地町で地元の食文化を支えてきた追い込みイルカ漁が解禁された。この日にあわせ来日した米国籍のイルカ保護活動家、リチャード(リック)・オバリー氏(75)が、行く先々で騒動を引き起こしている。

 静岡県伊東市の親善大使に任命されたとうそぶき、太地町では飲酒運転の末、旅券不携帯で摘発され、翌々日には懲りずに車を運転し自損事故を起こした。世界のイルカ保護運動に影響力を持ち、昨今の水族館イルカ問題でも主要プレーヤーとなったオバリー氏の言動は、太地町の漁師らが生活の糧としてきた営みを貶め、彼らの誇りや尊厳を傷つけている。オバリー氏は自らが招く摩擦が、日本社会とイルカ保護運動全体に大きな亀裂を起こしていることを把握しているのだろうか?

 太地町は、追い込み漁をスパイ映画のようなタッチで隠し撮りした米作品「ザ・コーヴ」(入り江の意味)が2010年にアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞して以来、世界のイルカ保護活動家にとって、悪名高き「聖地」になった。

 オバリー氏は1960年代、水族館で飼育されたイルカの調教に従事していたが、その後、テレビ番組に一緒に出演したイルカが死んだのを契機に、イルカ保護の立場に身を転じた。ザ・コーヴでは主役として登場し、世界的に名を馳せた。かつては反捕鯨団体シー・シェパード(SS)と協調路線を取っていたが、今は一線を画し、自らの団体「リック・オバリー・ドルフィンズ・プロジェクト」を組織して、国内外の活動家たちを束ねている。活動資金は、支持者から集めた寄付金だ。

 2003年から追い込み漁の反対キャンペーンを始めたオバリー氏にとって、漁解禁前の毎年8月末に訪日するのは定例だった。今年も8月27日に来日した。

オバリー氏が伊東市の親善大使に任命!?

 オバリー氏は到着するとその足で、静岡県伊東市にいる元イルカ漁漁師の元を訪ねた。同市富戸漁港はかつてイルカ漁を行っていたが、国内外からの批判が高まり、イルカを殺す漁をやめ、イルカを愛でるウォッチングビジネスを始めた。保護活動家にとっては、漁師らにイルカ漁を諦めさせる好例の手法を示す場所でもあった。

静岡県伊東市の佃弘巳市長と握手するリック・オバリー氏。「親善大使に任命された」とうそぶいた(オバリー氏のサイトより 削除済み)

 28日夕方、オバリー氏の団体はツイッターで「オバリー氏が伊東市の大使に任命された」と速報をうった。オバリー氏と元漁師、そして伊東市の佃弘巳(ひろみ)市長が笑顔で3人並ぶ記念写真が添付された。

 自身のフェイスブックページでも、オバリー氏は佃市長とがっちり握手する2ショット写真を掲載し、「ワオ、なんという嬉しい知らせだ。市長が私を伊東市の親善大使に任命した。日本人と敵対するのではなく、一緒に働くことは報われるのだ」というメッセージを流した。

 この知らせはまたたく間に世界中のオバリー氏の支持者らの間で広がっていった。

 「おめでとう。大きな名誉だ」「伊東市長に感謝を申し上げる」「あなたは、本当にレジェンドな人だ」

 ネット上の反応はあっという間に数千に膨らんだ。支持者たちは誰もがアカデミー賞作品主演のカリスマの言葉を信じた。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る