K氏は「二つとも初めて聞きました」と正直にすこしポカンとした表情で言った。K氏ほどの知識人でも慰安婦問題の根本的な事実関係や日韓両国の争点を知らないというのは韓国の反日歴史教育とマスコミ報道のお粗末さを示しているようで暗澹たる気持ちになった。
最近日本政府は海外の外交官が現地語で慰安婦問題などの複雑な問題をTVの公開討論番組で議論できる水準の語学力を身に着けさせるというプログラムを発表したが、今まで海外で特に韓国や中国や欧米等で敏感な政治問題について政府関係者はどれだけ有効な対外発信をやっていたのであろうか。
それとも私が挙げた従軍慰安婦に関する二つの論点を韓国政府は理解した上で、それでも韓国政府は日本に対して謝罪と賠償を要求しているのであろうか。
見えない反日の壁
K氏と別れてから釜山上陸以来の出来事を振り返ってみた。「韓国は政治的には反日だが一般の人々は実は親日」というような解釈はどうも一面的で楽観的過ぎるように思った。確かに私が出会った人達はK氏を除けば非常に親切であったし日本に対して悪い感情は持っていなかったようだ。それどころか仰天するような“おもてなし”を何度も経験した。それゆえ私は韓国の普通の人々は意外に親日的であると楽観していた部分があった。
しかし、田舎町の食堂で店員になぜだか理由は不明であるが“よそよそしい対応”をされたことが二度あったことを思い出した。そもそも私が日本人と認識して積極的にアプローチしてきたり、親切に相手をしてくれる人は元から親日的な一部の韓国人だけではないか。日本人に対して警戒心や悪感情を持っている普通の韓国人は片言のハングルをしゃべっている外国人(中国人の個人旅行者はまずいないので日本人と容易に判別できる)は日本人であろうと判断して遠巻きに冷ややかに見ているのではないか。そう考えると見えない反日の壁が私を取り囲んでいるように感じた。
⇒第7回に続く
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