WEDGE REPORT

2009年10月31日

»著者プロフィール

 乳歯が抜けたら屋根の上に放り投げる、こんな習慣が今の日本にどれくらい残っているかはわからないが、昔なら捨てられていた歯に、今、再生医療の世界から熱い視線が注がれている。

 再生医療に関する研究はまさに日進月歩。特に最近ではiPS細胞(人工多能性幹細胞)という、成人の皮膚などの細胞から遺伝子操作によって作られる万能細胞に注目が集まっているが、再生医療の道を拓くのは何もiPS細胞だけではない。体性幹細胞という、人間の身体を構成する臓器や骨、皮膚、血液などを作り出す幹細胞そのものにも、難病の治療や老化防止に役立つ可能性が秘められている。

歯髄から取り出した幹細胞の培養風景
拡大画像表示

 歯に含まれる歯髄から幹細胞取り出して再生医療研究に取り組む、日本歯科大学の八重垣健教授は「患者が苦痛を伴うことなく幹細胞を取り出せる。特に乳歯や親知らずには、増殖能力と臓器や組織への分化能力が高い幹細胞が多く含まれている。また、自分の細胞を将来、自分の身体に戻すため拒絶反応の心配もない」と歯髄の有用性を説明する。既に「歯髄の幹細胞から肝臓細胞を作ることに、世界で初めて成功し、これから動物実験や臨床試験へと移行していく」(同)と言う。動物実験は半年程度で終わるとのことで、iPS細胞とは異なり、すでに臨床応用への道筋がついている。さらに、八重垣教授は肝臓以外にも、現在、もう2種類の臓器の細胞分化あるいは臓器再生そのものに成功しており、今後の研究成果に期待が寄せられている。

中国の富裕層も有望なマーケット

 再生医療での実用化が待たれる歯髄の幹細胞だが、今秋には先行して歯髄の細胞バンキング事業が相次いで開始された。なお、体性幹細胞は、血液を造る造血幹細胞と、臓器や組織などを造る間葉系幹細胞の2つに大別され、白血病など血液疾患の治療に有効な臍帯血(造血幹細胞)のバンキングは、年間約5000件にも上る。しかし、歯髄のような間葉系幹細胞の保管を事業化した例は世界でも数少ない。主に乳歯の保管を手がける歯髄バンク(東京都千代田区)の関根寛之取締役は、「健康のシーズ(種)が隠された乳歯を捨てない時代を作りたい」と意気込む。

 保管方法は非常にシンプル。まず依頼者は虫歯のない乳歯を提携クリニックで抜歯する。その後、保存液に浸された乳歯は細胞保管施設に運ばれ、そこで乳歯の中の歯髄を取り出し、さらに幹細胞の分化・培養を行い「来るべきとき」まで冷凍保存される。乳歯1本の保管料は10年間で52万5000円。その後10年毎に更新料としてその半額が必要となる。当面の目標には「1万人が2本ずつ保管」(関根氏)を掲げている。現在、抜歯を行えるのは東京駅に隣接する拠点クリニックのみだが、「今後は地方都市にも提携クリニックを広げていく」(同)予定だという。既に2件の保管を行い、予約も全国から20件弱入っており、滑り出しは好調のようだ。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る