日本人初の挑戦も味わった敗北
“夢を追う男”の追い求めるものとは

冒険家 阿部雅龍さん


大元よしき (たいげん・よしき)  ライター

1962年東京生まれ。外資系IT企業からライターに転身。スポーツのほか、歴史関連も執筆中。著書に『あの負けがあってこそ』『命のバトン―自閉症児と個性派不登校児の教室』『1万回の体当たり―タックルマン石塚武生 炎のメッセージ』(以上ウェッジ)、『一緒に見上げた空』(扶桑社)。

あの負けがあってこそ

アスリートにとって、順風満帆の競技人生などは考えられない。怪我や敗戦は避けては通れない試練である。それは、「二度と口にしたくない」「思い出したくない」ものだったり、過去のものとして仕舞い込めない激しい葛藤として、長い間抱えているものかもしれない。しかし、敢えて競技人生最大の「敗北」を振返っていただくことで、その負けをいかに克服し、好転の機としてたちあがっていったのか、その心のあり様に焦点を当てたい。
人は誰もが挫折感や敗北感を乗り越えながら、自身で道を切り拓いてゆく創造者である。アスリートたちの敗北からの軌跡に触れ、人間力溢れる言葉に接してもらいたい。(画像:iStock)

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普段は粋でいなせな人力車夫として浅草を訪れる観光客を楽しませている。しかし、本職は「冒険家」という阿部雅龍氏にお会いした。名刺には「夢を追う男」と記されている。冒険家と人力車夫というギャップもさることながら、少年のようなくったくのない笑顔の阿部氏からは、命がけの旅に出るような屈強さは感じられない。自然体で、つかみどころがなく、それでいて溢れんばかりの生命力を感じさせる人である。

冒険家と人力車夫の顔を持つ阿部雅龍さん

 本稿のテーマはそれぞれのアスリートに競技人生最大の「敗北」を振り返っていただき、その負けから何を学び、何を克服し、どのようにして立ち上がっていったのか、その心のあり様に焦点を当てるというものであるが、はたして冒険家の「あの負け」とはどんなものだろうか。

自然に囲まれ、冒険心を育んだ子ども時代

 阿部雅龍。1982年秋田県生まれ。

 「幼少期の最初の記憶は、父親のお葬式です。僕が4歳のときに父親が29歳で亡くなりました。交通事故でした。あのとき僕は幼いながらも『人間って死ぬんだ』ということを感覚的に知りました。それ以降、『人は死ぬもの』という意識がいつもどこかにあって、それが僕の『人生を後悔しないために自分は何がしたいのか』という行動の基準になっていきました。幼い頃に父が亡くなっていなかったら冒険家としての僕はいなかったと思います」

 父親の死後、阿部の生活環境は一変。母方の家に引き取られ、祖父母と母、牛や馬たちと自然に囲まれた生活が始まった。父親が亡くなるまで自分に母親がいることを知らされていなかったせいか、しばらくの間は激変した環境に心を閉ざしてしまったけれど、山の中で自然と触れ合う暮らしが、少しずつ阿部を変えていった。人付き合いはあまり得意ではなかったが、近所のごく親しい仲間と山の中に秘密基地を作って遊ぶのが好きだった。

 「それが僕と自然との最初の触れ合いです。誰にも束縛されずに自分のままでいられるから、自然のなかは居心地がよかったんでしょうね。あそこでの生活が無ければ冒険家としての僕はなかったと思います」

 小学生の頃は、アムンゼン、スコット、マゼラン、コロンブスなどの探検ものや冒険ものの本を読むのが好きだった。中でも同郷人である白瀬 矗(しらせ のぶ)の極地探検の物語には胸を躍らせた。

-白瀬 矗、1861年 秋田県に生まれる。
  お寺の長男として生まれながらも、極地探検を志し陸軍教導団騎兵科に入団。1909年、北極点の踏破を目指すも、アメリカの探検家ピアリーに先を越され目標を南極点へ変更した。
  そして1910年11月に芝浦港を出航。途中、様々な困難に出合いながらも、1912年1月20日、白瀬隊は犬ゾリで南極点に向かった。しかし、氷点下20度の極寒の地では装備に限界があり、それ以上の進行を断念せざるを得なかった。
  同年1月28日、白瀬は南緯80度05分、西経156度37分の地点に日章旗を掲げ、そこを「大和雪原(やまとゆきはら)と命名し、帰国の途についた。1年7カ月の命がけの長旅だった。(参考:白瀬南極探検隊記念館HP)-

 後年この白瀬の挑戦が阿部の人生を変えるのである。

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「あの負けがあってこそ」

著者

大元よしき(たいげん・よしき)

ライター

1962年東京生まれ。外資系IT企業からライターに転身。スポーツのほか、歴史関連も執筆中。著書に『あの負けがあってこそ』『命のバトン―自閉症児と個性派不登校児の教室』『1万回の体当たり―タックルマン石塚武生 炎のメッセージ』(以上ウェッジ)、『一緒に見上げた空』(扶桑社)。

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