2024年4月19日(金)

対談

2016年2月22日

飯田泰之氏

 ただし、「雇用の未来」は技術的に代替可能であるかどうかしか考慮していません。代替可能になってもその技術が社会や企業に導入されるまでにはいくらかのタイムラグが発生します。それから、技術的代替可能性そのものも未来のことなので、確かなことは誰にもわかりません。「雇用の未来」では、各職種のコンピューターによる自動化されやすさを人工知能(機械学習)の研究者達が主観的に判断しています。

飯田 人工知能の未来を信じている人たちですね(笑)。

ポテンシャルが未知数のIoT

井上 近頃、人工知能と並んで注目されているのが「IoT(Internet of Things:コンピュータやスマートフォンなどの機器のみならず、あらゆるモノに通信機能を組み込みインターネットに接続させて、機器同士の通信や使用履歴の記録、遠隔操作などを可能にすること。「モノのインターネット」とも訳される)」ですが、これは人工知能以上にどうなるかわからない技術です。20年ほど前に「ユビキタス」という言葉が流行りました。これは「どこでもコンピューター」などと訳されましたが、あらゆるモノがコンピューターネットワークに接続される状況を意味しています。しかし、ユビキタスが結局のところ何の役に立つのかがいまひとつはっきりしませんでした。今度はユビキタスがIoTと呼び替えられたわけですが、企業側も今のところ何に使ったらいいのかよくわからないというのが正直なところみたいです。

 買い物をしているときに、冷蔵庫に何が入っているのかがわかればたしかに便利でしょうし、飛行機のエンジンからリアルタイムの情報が受信できれば、安全性は高まるでしょう。でもそれが産業革命のような大転換をもたらすのかというと、IoTだけでは恐らくそこまでのインパクトは持ち得ないでしょう。IoTと人工知能がうまく組み合わされれば、大きな可能性が開けてくるかもしれませんが。いずれにしても、次の産業革命の中心は人工知能だと思います。IoTについては、すごく期待している企業と、持て余している企業に分かれている印象です。

飯田 そうですね。ただ、検査や点検を人力でしなくても、稼働させたままデータが取れるという意味では、検査をしている人たちの仕事を奪う可能性はありますよね。いわゆる「技術的失業」の問題です。エリク・ブリニョルフソンとアンドリュー・マカフィーの著書のタイトルになぞらえれば「機械との競争」ですね。

井上 はい。IoTに限らず避けられない問題ですね。

飯田 産業革命期のイギリスで起こったラッダイト運動は、最初期の労働運動でした。機械によって仕事を奪われ、稼ぐことができなくなった労働者が、機械や生産設備を壊して回った。それでも馬車はバスに代わり、人力車はタクシーに取って代わられてしまいました。人間の肉体が機械に代替されて、肉体労働者が危機に瀕するというのがいわば伝統的な技術的失業だったわけです。
その一方で、20世紀末のコンピューター普及では、肉体労働から「シンボル操作型労働」の消失へと技術的失業の中身が変容しました。会計ソフトの発達で経理課の社員が減ったのは、その典型例です。

 つまり、ブルーカラーだけではなくホワイトカラーにまで技術的失業の波が届いてしまった。しかし今後の技術的失業は、ホワイトカラーの上層にまで及びつつあるということですね。

井上 アメリカでも事務労働がどんどん失われています。日本ではまだそこまで破壊的ではありませんが、これからアメリカの後を追うことになるのでしょうか。会計士や弁護士助手といった専門職も減っていく。銀行の窓口業務のみならず、与信業務までもAIに置き換わっていくという予測まであります。


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