2024年4月24日(水)

対談

2016年2月22日

技術革新は日本をブラック化させる?

飯田 BtoCの営業はきつくなっていくでしょうね。その影響もあってか、BtoC企業の営業部門のブラック化はしばしば耳にします。BtoCは確実にレコメンデーションとの競争になっていて、人間側は労働時間を増やして時給を実質的に下げることで対抗するという、いつかは必ず終わる必敗戦法でしか対抗できない。そもそも無理な競争を強いられています。

井上 そこなんですよね。AIが人間の労働を補完するのか、あるいは代替してしまうのか。その線引きは明確ではないとも思っています。

 アマゾンのシステムとアマゾンの社員は、補完的な関係です。だけどアマゾンは町の本屋さんを潰してしまうので、本屋で働いている人たちは技術的に失業してしまう。今の日本で進行しているのは、間接的ではあれレコメンデーションなどの機能で技術的失業が生じているということなのでしょう。ただ、技術的失業がどのくらい起きているかという統計がおそらく存在しないのですが。

飯田 日本の場合は労働人口がそもそも縮小しているので、影響が見えにくくなっていますよね。また肉体労働者を中心に強烈な人手不足状況にあるので、失業を吸収してしまう。この二つの要因で相殺されて、失業率そのものはむしろ低下傾向にあります。今後、中間層が肉体労働に押し出されてくるとどうなるかわかりませんが、現状は肉体労働の給料が良いので選択としては魅力的になっている。

井上 少子高齢化の進展と技術革新の速度が同じテンポで進んでいればショックは相殺されるかも知れませんが、そうはうまくいかないでしょう。テンポのズレの部分はマクロ政策や、再分配政策による手当てが必要ですね。

飯田 技術の進歩はある瞬間から指数関数的に伸びていきますからね。今の社会におけるAIは、産業革命初期に蒸気機関が改良されたくらいのレベルなのだとしても、これが内燃機関レベルへの進化を遂げると一気に局面が変わる。それは必ず起こると思います。

井上 蒸気機関もドニ・パパンの真空エンジンからワットの蒸気機関まで、75年かかっていますからね。リアルタイムで見ていれば「まだまだ」と思っていたものが、一気に花開いて社会を一変させてしまった。AIがどの時点で火がつくかはわかりませんが、2030年あたりまでのどこかで点火するだろうとは思っています。

飯田 インターネットも、90年代後半まで日本は先進国最低レベルの普及率でどうにもならないといわれていたのに、2000年代初頭に爆発的に普及しました。携帯電話の普及もそうでしたし、財はどこかで指数関数的に普及してしまう。でも少子高齢化はゆっくりとしか進まないから、どこかで技術の発展スピードがあっさり追い越してしまうでしょう。その時までに、機械には代替不可能な仕事を増やしておかないと厳しい。

井上 もっと恐ろしいシナリオですが、技術的失業はあまり問題ではなくなるかも知れません。賃金だけが下がってブラック職場ばかりになってしまうという可能性が大いにあると思います。このままでは失業かブラック化のどちらかは起こってしまう気がします。

飯田 生産性だけで見れば工業用ロボットと手作業の勝負は完全についてしまっていますが、手作業でしか作れないものに特別な価値を見出す人を相手にした商売は、代替できないものとして存在できる。でもそれまでの過渡期は、経営者は目先さえ乗り切れればなんとかなってしまうので、賃金を下げていくだけでも数十年は耐えられてしまうかもしれない。そういう業界がブラック化する懸念がありますね。

井上 そうですね。

飯田 欧米は労働時間の管理が厳格な職種が多いですから、技術的失業に収斂する可能性が高いのではないでしょうか。一方で、日本の場合は正社員中心に解雇規制がある中で、労働時間管理はザルですから、ブラック化しやすい。


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