2024年4月25日(木)

対談

2016年2月22日

飯田 機械による肉体労働の代替で、肉体労働に従事していた人たちが別の仕事に就くことでそれまでなかった付加価値が生み出され、むしろ経済全体は発展するといわれてきました。高度成長期はもちろん、80年代の工場無人化あたりまでは実際にそうなってきたのです。その一方で、コンピューター普及はどの程度まで付加価値を生んだのか、ちょっとはっきりしない気はします。

井上 プログラマー、ウェブデザイナー、IT系のサービス企画やマネジメントの仕事は増えましたが、ただ情報技術というものの性質上、新たに増えた仕事と失われた仕事を比べれば、基本的には減る仕事のほうが多くなります。みんながネットで飛行機やホテルの予約をするようになったら、リアルの旅行代理店の雇用者数が減る。ネットのほうが安上がりだからみんなが使うわけで、ネット業者がリアルよりも人件費を払っていたら安くはできませんから。これが人工知能の導入まで進めば、さらに雇用を減らす可能性が高いとは思います。

「機械との競争」は不可避である

飯田 一方で、従来型の技術革新ではまったく違う分野の新たな仕事が生み出されてきました。日本の産業構造でいえば、第二次産業である工場労働者の需要減少を吸収したのは、準ホワイトカラーの仕事。典型的には営業マンでした。

 営業マンの仕事は、以前にも増してあらゆるビジネスのキーになってきています。顧客の漠然とした要望に対して解決できるパッケージを提案すること、いわばコンサルティング機能としての営業がビジネスの主役になりつつある。コンピューターが発達しても営業マンの数が増えている理由はここにあります。

 コピペで広まったジョークに「NASAは100億ドルの開発費をかけて無重力でも書けるボールペンを開発した。一方ロシアは鉛筆を使った」というのがあります。本当はNASAだって鉛筆を使っていたわけですが(笑)、ボールペンの性能比較や、最安値を探すことはコンピューターの得意分野です。でも鉛筆を真のソリューションとして提案するのは人間の仕事だった。あなたに必要なのはボールペンなのか、鉛筆なのか、それとも紙を変えることなのか。その人の仕事ぶり全般を見ての提案は、人間でないとできなかったわけですが、これもまたAIの発達で次のステージに移行しつつあるのでしょうか?

井上 予兆といえるものは出てきていますよね。アマゾンなどのレコメンデーション機能は「協調フィルタリング」の仕組みを使っています。購買履歴が似た人を見つけて推論し、「この商品を買った人はこちらも買っています」と提案する。まだそこまで賢いシステムではありませんが、提案型の営業までもが代替される未来の始まりとはいえるかも知れません。

 そもそも、外交員が毎週のように訪ねてくる生命保険の営業スタイルがネット保険に代替されつつあるのは、みんなが「必要なときにだけ提案してほしい」と思っていたことの裏返しでもあって、それはコンピューターのほうがうまくやりやすい分野ですよね。とはいえBtoBではまだ当面、生身のセールスマンが必要かなとは思いますが。


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