2024年4月28日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年8月30日

「G20成功」最優先という党内事情

 中国政府は一つの方向に向かって走っていた。日中韓外相会談の開催直前に北朝鮮が潜水艦発射弾頭ミサイル(SLBM)を発射したことが、3カ国の「協力」の弾みになったとの見方もある。しかし王毅の目の先にあったのは明らかに杭州G20だ。「G20成功」のためなら、日本側が抗議を強めても尖閣問題にとりあえずは前向きに対応しておこう、という態度である。それは、中国共産党・政府として王毅の来日に先立って「尖閣」に対して日本の実効支配を崩そうと、公船・漁船で行動を起こしたことを前提とした柔軟姿勢にも見えた。

 岸田との外相会談を終えた王毅は、また記者団の前に立った。

 「われわれが達成した共通認識は、双方の努力によって海上の摩擦をコントロールするということ。同時にわれわれは高級事務レベル協議を開き、中日間の(不測の事態回避に向けた防衛当局間の)『海空連絡メカニズム』を早期にスタートさせることです。われわれはもう十分に話し合った。小さな問題が少し残っている。日本側に(中国側と)同様の前向きな意思があれば、われわれはすぐに一致できる」

 一方、岸田は会談後、尖閣情勢に関して記者団にこう話している。「事態の完全なる沈静化、そして再発防止、東シナ海全体の状況の改善を強く求めた。王毅部長は、東シナ海情勢の悪化を防ぎ、不測の事態を回避することが重要であり、日中間で意思疎通を積み重ね、日中関係を改善していきたいとの趣旨の発言を行った」

 「海空連絡メカニズム」は、もともと日本側が早期の運用を強く求め、中国政府は渋ってきたのだ。岸田以上に王毅が記者団に前向きな姿勢をアピールしているのは、「G20成功」を最優先しているという党内の事情があった。


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