コラムの時代の愛−辺境の声−

2017年1月1日

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藤原章生 (ふじわら・あきお)

毎日新聞記者

1961年、福島県生まれ。北海道大学工学部卒業後、住友金属鉱山に入社。89年に毎日新聞社に入り、ジャーナリズムの道へ。92年に外信部に所属し、 93年にメキシコ留学。帰国後の95年から南アフリカ・ヨハネスブルグでアフリカ特派員、2002年からは、メキシコ市支局長、ラテンアメリカ特派員。08年〜12年までローマ支局長。5 年半に渡るアフリカ特派員時代の取材を元にした著書『絵はがきにされた少年』(集英社文庫)で05年の開高健ノンフィクション賞受賞。著書に、『世界はフラットにもの悲しくて』(テン・ブックス)、『資本主義の「終わりの始まり」―ギリシャ、イタリアで起きていること』 (新潮選書)、『ギリシャ危機の真実 ルポ「破綻」国家を行く』(毎日新聞社)『翻弄者』(集英社)、『ガルシア=マルケスに葬られた女』(集英社)。

 2017年、「扉」はどこまで開かれるのか。いや、そもそも「扉」の向こうに何があるのか。ギリシャ映画界の巨匠の預言から、民衆の圧力がどこへ向かうのかを考えたい。

テオ・アンゲロプロス氏(GettyImages)

 ギリシャにテオ・アンゲロプロス(1935~2012年)という映画監督がいた。歴史に翻弄される民衆の姿を、長回しのワンカット撮影や独白でつづった「旅芸人の記録」(1975年)をはじめ、実録と幻想を織り交ぜたフィクションが高く評価された。日本でも是枝裕和監督のデビュー作「幻の光」など、アンゲロプロスの影響を受けた作品は少なくない。

 2012年1月、新作を撮っていた彼はロケ地近くの路上でバイクにはねられ、突然亡くなった。その7カ月前、私は何年も前から申し込んでいたインタビューをようやく許され、話を聞くことができた。夜、アテネの古いビルにあるオフィスに訪ねると、彼はすべて準備していたかのように、「これだけは聞いておいてほしい」と、いきなり政治的な話を始めた。

 彼の作品で登場人物がおもむろにカメラに向かって独白を始めるように、監督は落ち着いた姿勢、表情ながらも、とうとうと話し続けた。要約を以下に記す。

未来を指し示す政治の不在

 「今は最悪の時代だ。将来を見通せず、未来がまったく見えない。問題は経済ではない。人々に未来を指し示す政治が、ギリシャに限らず世界中どこにもないことだ。政治家も学者も広場に集まる人々も自分たちがどこに向かっているのかがわからない。ただ、誰もが待合室に集まり、チェスの駒を動かしながら、目の前の『扉』が開くのをじっと待っている」

 そのとき話題になっていたギリシャ危機のことだけではなかった。広く世界を覆う「閉塞感」の話だった。ごく一部に富や機会が集まり、大多数がかつての中流から下流へと落ちていくグローバル資本主義を問題にしていた。頭打ちとなった経済成長と、それに伴う貧富の格差。一人当たりの所得で言えば、1970年代よりも明らかに高いが、絶望的な気分が人々の間に広がる。

 その閉塞感をアンゲロプロスは「扉」という言葉で暗示した。気になるのは、その「扉」がこじ開けられるかどうかだ。

iStock

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