2024年4月19日(金)

イノベーションの風を読む

2017年2月25日

 しかし写真を撮る目的に着目して、人々(一般消費者)の基本的なニーズを考えれば、それはひとつではなく、次のように分類し定義することができます。

  • 学校や会社などの社会(ソーシャル)で写真を共有する
  • 個人や家族の生活(プライベート)を記録し保存する
  • 趣味で電車や鳥や風景などの撮影を楽しむ

 便宜的に、それぞれの基本的なニーズを「社会で共有」「家族の記録」「趣味の撮影」と呼ぶことにします。

 フィルム時代あるいはインターネット以前のデジタルの時代には、「社会で共有」の手段が非常に限られていました。友人との旅行や結婚式などのイベントで撮影した写真は、焼き増しプリントやCD-ROMなどの物理的なメディアに書き込んで交換していました。インターネットの時代になって、FacebookやInstagramなどのソーシャルネットサービス(SNS)が、「社会で共有」の新しい手段を提供し、それまでのプリントやCD-ROMという不自由な手段に取って代わりました。さらに「社会」の範囲を世界中の不特定多数にまで広げ、SNSの多様化が「社会で共有」の楽しみ方を劇的に拡大しました。

 「社会で共有」の手段がSNSならば、写真を撮るためにデジカメではなく、いつも携帯しインターネットにつながっているスマートフォンを人々が選択したのは自然なことです。「写真を撮る」ということは「社会で共有」の手段の一部に過ぎません。最初からデジカメの出る幕はなかったのですから、デジカメ市場の縮小をスマートフォンのせいにするのは濡れ衣というものです。

家族の記録

 スマートフォンとSNSは「社会で共有」の新しい手段を提供しましたが、「家族の記録」の手段は提供していません。インターネットという新しい技術が利用可能になったにも関わらず、「家族の記録」の手段は依然として不自由なまま、むしろ多くの人にとってフィルム時代より不自由になったかもしれません。「家族の記録」の手段が不自由なものであれば、そのためにわざわざデジカメを使う必要はなく、「社会で共有」のためにいつも携帯しているスマートフォンを使って「家族の記録」もすれば十分だということになっているのです。

 フィルム時代から「家族の記録」は、変わることのない基本的な(大きな)ニーズです。人々が「家族の記録」をしなくなったということはないでしょう。すでに購入したデジカメやスマートフォンで、フィルム時代の数倍の写真を撮っているはずです。そのような写真をどのように保管して、家族でどのように共有しているかを日米でインタビューしたことがありますが、ほとんどの人がこれといった手段を持っていませんでした。


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