2024年4月27日(土)

イノベーションの風を読む

2017年2月25日

 大手のカメラメーカーは、撮影機能が向上したスマートフォンによってコンデジの市場が侵食され続けているとして、スマートフォンとの差別化のために高画質化を目指し、レンズ交換式デジカメ並みの大型の撮像素子を搭載したプレミアムコンパクトというジャンルのコンデジに注力しています。しかし決算報告と同じ日に、ニコンはそのプレミアムコンパクトのDLシリーズ(3機種)の発売中止を発表しました。

 DLシリーズは昨年2月に発表され、その直後のCP+(カメラと写真のワールドプレミアショー)で注目を集めました。2016年6月の発売予定でしたが、画像処理用ICの不具合を理由に延期されていました。ニコンは「開発費が増加したこと、および市場の減速に伴う販売想定数量の下落等も考慮し、収益性重視の観点から発売中止を決定した」と説明しました。デジカメ市場の「減速」という苦しい表現は「急速な縮小」が正しいでしょう。それでもニコンは、構造改革の基本方針の1つの「高付加価値化」という看板は下ろしていません。

 ニコンに限らずカメラメーカーの業績発表の際には必ずと言っていいほど、その不振の原因をスマートフォンに転嫁する発言がみられます。しかしそれは真実ではないでしょう。

基本的なニーズは何か?

 『Googleフォトがもたらすデジカメの終焉』の最後に、「技術の進歩によって、その手段は変化していくが、人々の基本的なニーズは変わらない」と書きました。これは人間中心設計という考え方を提示し、アップルコンピュータの時代に、ヒューマン・インターフェイス・ガイドラインの策定に関わったD.A.ノーマンの著書『誰のためのデザイン?』の中の次の言葉を引用したものです。

Technology changes the way we do things, but fundamental needs remain unchanged. 

 この短い言葉が、これまでに起きた破壊的イノベーションの本質を表しています。破壊的イノベーションは、ある基本的なニーズを満たしてきたそれまでの手段を破壊して新たな手段で代替します。既存事業のイノベーションに取り組むには、自社の製品が満たしてきた基本的なニーズを再定義し、新しい技術によって可能になる新しい手段を考える必要があります。

 カメラを使う人々の基本的なニーズを「写真を撮る」ことだと定義してしまうと、その手段はカメラ(だけ)ということになります。そして技術の進歩によって、カメラというハードウェアを進化させるだけで良いという考えに陥ってしまいます。その結果、人々がいつも携帯し、撮影機能が向上し、さらにインターネットにつながっているスマートフォン(のカメラ)との機能面だけでの競合となり、デジカメは「高画質化」や「高付加価値化」という差別化(逃げ道)しか考えられなくなります。


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