イノベーションの風を読む

2017年2月2日

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川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

 アップルが昨年末に発売を開始したAirPodsは、iPodとiPhoneの次の、そしてジョブズ後のアップルにとって初めての「発明」になる可能性を秘めている。それには、iPhoneの大成功によって生じたイノベーションのジレンマを克服する必要がある。

(著者作成)

完全ワイヤレスの音楽体験

 左右のユニットをつなぐコードすらない完全なワイヤレスのイヤホンAirPodsは、イヤホンジャックが消滅したiPhone7と同時に発表されて昨年10月の下旬に発売予定だったが、アップルから情報提供がないまま発売が遅延し、12月13日の深夜にオンラインストアでひっそりと注文可能になった。それも朝までには品切れになり、その後もアップルの店舗や量販店のウェブサイトなどで、限定数がゲリラ的に発売されてはすぐに売り切れるという状況が続いているようだ。

 iPhoneに蓄積されていたり、ストリーミング配信される圧縮された音楽は、着信音などとミキシングするために、iPhoneで伸張と再圧縮が行われてからAirPodsに転送されるので、音質はiPhoneに付属する有線のEarPodsよりも劣るだろうと諦めていた。しかしSpotifyの無料のストリーミングでロックなどの洋楽を聴いて十分に満足しているレベルの私には、むしろ音質が向上したようにも感じる。

 移動中とデスクでの仕事中は、音楽を聴く聴かないに関わらず常にAirPodsをつけている。移動中はiPhoneでSpotify、デスクでの仕事中は接続をMacに切り替えてSpotifyやビデオ会議や動画の視聴など。洗面所で鏡を見て、つけていることを再認識するという感じだ。バッテリーとアンテナを内蔵した「うどん」と揶揄される耳から垂れる部分が太くなっているからなのか、コードが完全になくなったからなのか、EarPodsよりも装着感が薄れたにも関わらず落ちる気がしない。ジムで腹筋をしたりトレッドミルで走っているときに、耳から外れそうになったこともない。「うどん」の太さは、考え抜かれたデザインなのかもしれない。家人もビデオ会議の相手も、耳から「うどん」を垂らした私の姿にすでに慣れてくれたようだ。

Siriはまだ会話ができない

 手にしてから1カ月あまりで、すでにAirPodsは私にとって「なくてはならない」ものになっている。しかし急いでAirPodsを入手したのは、AirPodsでSiriと会話してみたかったからだ。

AirPodsを着けてのSiriとの会話は、映画「アイアンマン」の主人公トニー・スタークをアシストする人工知能のJ.A.R.V.I.S.(ジャービス)を思い出させる。ジャービスは、スタークが鋼鉄製のパワードスーツを装着して戦う時は的確な情報を伝え、普段はスタークの指示に従ってパワードスーツを開発するためのロボットをコントロールしたり、ちょっとユーモアのあるフレンドリーな執事の役割を果たしたりする。(過去のコラムより)

 パワードスーツを脱いだスタークはヘッドセットを着けてジャービスと会話するが、そのヘッドセットよりAirPodsの方がはるかに小さく断然クールだ。しかしSiriは、まだ会話ができない。

 SpotifyはSiriに対応していない(音楽アプリがSiriに対応するための開発環境が提供されていない)ので、Siriができることは「音量を変える」「曲をスキップする」「再生を止める」ことだけだ。それ以上のことをSiriに頼むには、Apple Musicを使わなければならない。

 しかしApple Musicを使っても、Siriとの会話体験はあまり快適にはならない。「音量を上げて」といった単純な言葉のリクエストであれば正しく処理を行ってくれるが、それでSiriは終了してしまうので、もう少し大きくしたいと思ったときは、もう一度AirPodsを2回タップしてSiriを起こす必要がある。ちょっと複雑な単語の組み合わせや、カタカナ(海外)のミュージシャンの名前や曲名はなかなか理解してくれない。「サイモンとガーファンクルの曲」をかけてもらうには、Siriを何度も起こして発音を変えてお願いしなければならない。話すのがちょっと遅れたり言い方を間違えると「聞き取れません」「わかりません」とすぐに終了してしまう。ちょっとした間の悪さと素っ気なさの積み重なりが、Siriを「なくてもいい」ものにしている。

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