前向きに読み解く経済の裏側

2017年3月16日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

企業収益好調なのに設備投資が伸びず……不況のトラウマ?

 企業の収益は好調で、史上最高レベルにあります。しかし、設備投資は盛り上がりに欠けています。その一因は、生産も売上も増えないので、能力増強投資を行なう必要がない、ということでしょう。今ひとつは、過去の不況のトラウマだと思われます。バブル崩壊後の日本経済は、何回も景気が回復しかけては挫折し、そのたびに「景気回復を期待して能力増強投資を行なった企業」が痛い目に遭ってきました。それがトラウマになって、「どうせ遠からず不況になるのだろうから、能力増強投資はやめておく」という企業が多いのでしょう。

 一方で、省力化投資には期待が持てます。これまで安価な労働力が豊富にあったので、企業は省力化投資のインセンティブを持たず、省力化投資を怠って来ました。そこで、少しの省力化投資で大幅な省力化ができる余地がいたる所にあるからです。少子高齢化を考えると、中長期的に労働力不足は続きそうですから、「どうせ遠からず安価な労働力が豊富に手に入るだろう」とは思われませんから。

雇用者報酬が増えているのに消費が低迷……不況のトラウマ?

 労働者の平均賃金は、アベノミクスによってもほとんど上がっていません。しかし、これは正社員よりも非正規社員が増えたことによって平均が押し下げられたことの影響が大きいのです。サラリーマンに養われていた専業主婦がパートの仕事を始めると、家計の収入は増えて家計は豊かになりますが、労働者一人当たりの平均賃金は下がります。そうしたことが多くの家庭で起きているため、日本全体としても「労働者階級の稼ぎは増えているのに、一人当たり労働者の所得は増えていない」という統計になっているわけです。

 このように、人知れず日本の労働者階級の総所得は増加しているのですが、その割に消費支出は伸びていません。「社会保険料負担が増加しているから、給料が増加しても実質的には豊かになっていない」「老後が不安だから人々が貯蓄に励んでいる」という面もありますが、「アベノミクス前から社会保険料は徐々に上がっていた」「アベノミクス前から人々は貯蓄に励んでいた」ことを考えると、「アベノミクスによって所得が増えたのに消費が増えない理由」の説明には使いにくいです。

 やはり、不況のトラウマで、「どうせ遠からず失業するのだから、せっかく受け取った給料は貯蓄しておこう」と考えているのかもしれませんね。これについては、少子高齢化による労働力不足が今後中長期的に深刻化していくことを考えれば、おそらく心配無用なのでしょうが、そこまで考えずに不安に思っている人が多いのでしょう。

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