シリーズ「待機児童はなぜ減らないのか?」

2017年4月11日

»著者プロフィール
閉じる

小林美希 (こばやし・みき)

労働経済ジャーナリスト

1975年生まれ。株式新聞社、毎日新聞エコノミスト編集部を経て2007年2月からフリーのジャーナリスト。「ルポ看護の質〜患者の命は守られるのか」「夫に死んでほしい妻たち」(朝日新書)、(岩波新書)「ルポ保育崩壊」(岩波新書)と「ルポ母子家庭」(ちくま新書)「ルポ“正社員”の若者たち」(岩波書店)、「看護崩壊」(アスキー新書)、「ルポ職場流産」(岩波書店)、「ルポ産ませない社会」(河出書房新社)など

シリーズ「待機児童はなぜ減らないのか」では、いつまでたっても一向に改善されることのない待機児童問題の根本原因はどこにあるのか。「需要予測のミスマッチ」「非正規労働者の育児休業の実態」「共働きと長時間労働」「社会構造の変化」という点から解き明かしていく。

 「仕事を続けたいのなら、産後8週ぴったりで職場復帰してください」

 自治体病院で1日6時間勤務のパートの事務員として働く加藤良子さん(仮名、38歳)は、上司からそう言われた。育児休業は雇用保険を原資に育児休業給付金が支給され、正社員と一定の条件を満たす非正規雇用が取得できるが、同病院では、「パート」と「臨時職員」という雇用形態とで働く非正規の女性は例外なく育児休業を取ることができない決まりになっている。夫の収入だけでは家計に不安な良子さんは、産後8週での職場復帰を余儀なくされた。

 職場の事務員はパートが2人だけ。5月末が予定日だったが、上司から、「年度始めだから、ぎりぎりまで働いて引き継ぎをして」と命じられ、産前休業は半分しかとることができなかった。産後は8週の休み、ぴったりでの復帰となった。

 自治体が設置する認可保育所には入ることができず、生後1カ月から子どもを病院の院内託児所に預けながら働いている。まだ生まれたばかりのような、柔らかくて温かい赤ちゃんを院内保育所に預け、仕事をしているうちに母乳がたまって胸が張ってくると、「ああ、今頃おっぱい飲みたいんだろうな」と寂しい気持ちになった。そして、「なぜ、パートということで育休を取ることができないのだろう。他の正規・非正規職員と同様に雇用保険にも加入しているのに」という疑問が拭えない。

(iStock)

 こうした非正規雇用の女性が置かれる状況がある一方で、自治体の保育課の多くが「育児休業をしっかりとってから保育所を利用できるよう、1~2歳児の定員を拡充する」と、言及している。確かに理想ではあるが、現実を見れば詭弁を弄する。なぜなら、育児休業を取ることができる女性がそもそも限られているからだ。

 育児休業を取ったうえで保育所に子どもを預け職場復帰できるのは、もはや“勝ち組”ともいえる。妊娠や出産によってマタニティハラスメントに遭うケースも多い。連合の「第3回マタニティハラスメント(マタハラ)に関する意識調査」(2015年8月)では、正社員と非正社員を合わせた数字だが、39.6%が「育休を希望しても取れなかった」と答えている。「産休・育休をとり、引き続き同じ職場で働いている」と答えたのは32.9%で、3人に1人しかいない。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る