「仕事を続けたいのなら、産後8週ぴったりで職場復帰してください」
自治体病院で1日6時間勤務のパートの事務員として働く加藤良子さん(仮名、38歳)は、上司からそう言われた。育児休業は雇用保険を原資に育児休業給付金が支給され、正社員と一定の条件を満たす非正規雇用が取得できるが、同病院では、「パート」と「臨時職員」という雇用形態とで働く非正規の女性は例外なく育児休業を取ることができない決まりになっている。夫の収入だけでは家計に不安な良子さんは、産後8週での職場復帰を余儀なくされた。
職場の事務員はパートが2人だけ。5月末が予定日だったが、上司から、「年度始めだから、ぎりぎりまで働いて引き継ぎをして」と命じられ、産前休業は半分しかとることができなかった。産後は8週の休み、ぴったりでの復帰となった。
自治体が設置する認可保育所には入ることができず、生後1カ月から子どもを病院の院内託児所に預けながら働いている。まだ生まれたばかりのような、柔らかくて温かい赤ちゃんを院内保育所に預け、仕事をしているうちに母乳がたまって胸が張ってくると、「ああ、今頃おっぱい飲みたいんだろうな」と寂しい気持ちになった。そして、「なぜ、パートということで育休を取ることができないのだろう。他の正規・非正規職員と同様に雇用保険にも加入しているのに」という疑問が拭えない。
こうした非正規雇用の女性が置かれる状況がある一方で、自治体の保育課の多くが「育児休業をしっかりとってから保育所を利用できるよう、1~2歳児の定員を拡充する」と、言及している。確かに理想ではあるが、現実を見れば詭弁を弄する。なぜなら、育児休業を取ることができる女性がそもそも限られているからだ。
育児休業を取ったうえで保育所に子どもを預け職場復帰できるのは、もはや“勝ち組”ともいえる。妊娠や出産によってマタニティハラスメントに遭うケースも多い。連合の「第3回マタニティハラスメント(マタハラ)に関する意識調査」(2015年8月)では、正社員と非正社員を合わせた数字だが、39.6%が「育休を希望しても取れなかった」と答えている。「産休・育休をとり、引き続き同じ職場で働いている」と答えたのは32.9%で、3人に1人しかいない。