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2017年5月17日

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ティム・ハーフォード氏(経済学者、ジャーナリスト)

「ねえパパ、人は死んだらどうなるの?」「さあ、分からないな。だれにも確かなことは分からない」「じゃあグーグルに聞いてみたら?」

グーグルは死後の世界があるかどうかを教えてくれるほど賢いのかといえば、そんなことはない。だが英ランカスター大学の研究チームによると、私たちの会話に「グーグル」という言葉が登場する頻度は、「賢い」「死」のどちらよりも高い。

グーグルがスタンフォード大学(米カリフォルニア州)のささやかな学生プロジェクトとしてスタートしてからこうして文化全体に行き渡るまで、たった20年しかかからなかった。

グーグル以前の検索技術がどんなにひどかったか、思い出すことさえ難しい。例えば1998年に、当時の有力な検索エンジンだった「ライコス」に「車」と打ち込むと、出てくる検索結果はポルノサイトだらけだった。

なぜかというと、ポルノサイトのオーナーが、よく検索される「車」のようなキーワードを細かい文字や白地に白の字でサイトに忍び込ませていたからだ。

ライコスのアルゴリズムはこう判断する。「車」という単語がたくさん出てくるページだから、「車」を探している人が知りたい内容なのだろう。グーグル時代の今となっては、ほとんど笑い話になるくらい安易な判断だ。

ただ、グーグルの創業者となったラリー・ペイジ氏とサーゲイ・ブリン氏は当初、検索サービスの改良版を開発しようとしていたわけではなかった。

2人がスタンフォード大学で取り組んだプロジェクトには、もっと研究者ならではの動機があった。

学術界では発表された論文の信頼性を測る尺度として、ほかの論文への引用回数が使われる。引用先の論文がまたほかの論文に何度も引用されていれば、それだけ信頼性が高いと評価される。

ペイジ氏とブリン氏は当時まだ誕生したばかりだったウェブに着目し、全てのリンクを分析する方法が見つかれば、あらゆる分野のウェブページについて信頼性のランク付けが可能になるはずだと考えた。

そのためにはまず、インターネット上の情報を全てダウンロードする必要がある。

ここでちょっと困ったことが起きた。2人の作業がスタンフォード大学の回線容量の半分近くを占領してしまったからだ。大学にはウェブサイトの管理者たちから、グーグルのプログラムのせいでサーバーがパンク状態に陥っているという苦情が殺到した。

ページ氏とブリン氏はアルゴリズムの改良を重ねるうちに、自分たちが従来のウェブ検索よりはるかに優れた検索方法を発見していたことに気付く。

ポルノサイトに細かい文字で「車、車、車」と書き込んでも、車情報のサイトからリンクを張られることはあまりない。しかしグーグルに「車」と入れて分析させれば、出てくるのはおそらく――そう、車に関する検索結果だ。

ページ氏とブリン氏にはすぐに投資家が集まり、グーグルは学生プロジェクトから企業に生まれ変わった。今では年間数百億ドルの利益を上げる、世界トップクラスの大手企業だ。

だが最初の何年かは、この先どうすれば投資リターンが出せるのか、それが可能なのかどうかさえも分からず、資金を使い果たすばかりだった。これはグーグルに限った話ではない。

インターネット・バブルの時代で、赤字を出しているネット関連企業の株がとんでもない高値で取引されていた。今は赤字でも、やがて利益を生むビジネスモデルを見つけてくれるだろうという期待があった。

スピードと透明性

グーグルが「クリック課金型(PPC)広告」というビジネスモデルを見出したのは、2001年のことだ。特定のキーワードを検索した人が広告のリンクをクリックしてサイトへ誘導されたら、広告主はその回数に応じてグーグルに料金を支払う。グーグルでは「オーガニック検索」と呼ばれる非広告枠の結果とともに、1クリックの単価を高く設定した上位スポンサーの広告が表示される。

広告主からみた利点は明らかだ。自分の売っているものに関心を示す人とつながった時にだけ、広告料を支払えばいいのだから。

新聞広告にお金を払うよりも、はるかに効率が良い。

新聞では、たとえ読者層が自分のターゲットと一致していても、広告を目にした人のほとんどが商品に知らん顔、という事態を避けられない。

新聞の広告収入が激減しているのも当然だ。

新聞社はあわてて新たなビジネスモデルを模索している。これはグーグル検索が経済に及ぼしている、はっきりとした影響の一つだ。

だが実用的な検索技術の発明は、このほかにもさまざまな面で価値を生み出した。米コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーは数年前、その主な例を列挙してみせた。

ひとつは時間の節約だ。複数の研究によれば、グーグル検索は図書館で情報を探す作業に比べ、出かけていく時間を差し引いても3分の1の時間で済む。

ネット上で業者を探す作業も同じように、職業別電話帳のような活字版を使うより約3倍も速いという。

マッキンゼーによれば、生産性向上の効果は数千億ドル相当に上ると推定される。

もうひとつの利点は、経済学者の専門用語でいう「価格の透明性」だ。平たく言えば、店頭で携帯電話を取り出し、買おうとしている商品をグーグル検索してもっと安い店があるかどうかを調べ、その情報を使って値切ることができるようになった。店にとっては迷惑だが、消費者にとっては便利な話だ。

さらに「ロングテール」と呼ばれる効果もある。実店舗では、めったに売れない地味な商品に通路を何列使っても意味がない。限られた範囲の売れ筋商品に絞るのが一般的だ。

自然独占状態?

だがちゃんとした検索機能を使えば、無数の商品という干し草の山に埋もれた1本の針も見つけやすくなる。こうして、実店舗より多様な商品を扱うオンライン・ショップが繁盛するようになった。

「あれが欲しい」と具体的に決まっている時、地元のスーパーにある一番近い物でがまんする代わりに、欲しいと思ったまさにその物が見つかる可能性が高まる。ニッチ(すき間)商品を扱う起業家も、市場が見つかるという確信を持って売り出すことができる。

買う側にとっても売る側にとっても、素晴らしい話ばかりのように聞こえる。

だが、ここにひとつ問題がある。

グーグルは世界の検索市場で9割近いシェアを独占している。グーグルのオーガニック検索で上位に表示されることが死活問題になっている業者は多い。

一方でグーグルは、表示順位を決めるアルゴリズムの手直しを絶えず繰り返している。

どうすれば上位になるかという大まかなアドバイスは提供しているが、順位の決め方は不透明だ。公開してしまうと、抜け穴を見つけて細工するのに必要な情報を種明かしすることになる、というのが大きな理由だ。そうなれば、車を検索するとポルノが出てきた、あの時代に逆戻りしてしまう。

グーグルに命運を握られた悔しさに歯ぎしりしている経営者や検索対策コンサルタントは、ネット上を少し見渡せばすぐに見つかる。(これもグーグルのおかげだ)

グーグルが容認できないと考えるような手段を使っていると判断された場合は、順位を下げられてしまう。

あるブロガーは、グーグルが「裁判官と陪審員、そして執行人まで兼ねている」とこぼす。

「ルールを破った疑いがあるだけで罰を受ける。私たちはどんなルールがあるのかさえ知らないのに」

グーグルのアルゴリズムのご機嫌を取るにはどうすればいいのか。それを探る作業は、全能で気まぐれで、人知を完全に超越した神を鎮めようとする試みに似ている。

グーグルで上位にくる結果が検索した人にとって有用である限り、下位に追いやられる者は気の毒だが仕方がない。そう考える人もいるだろう。検索結果が役立たずになってしまったら、その時はまたスタンフォード大学に通う2人の学生が市場のすき間に気付き、もっといい方法を考え出してくれるはずだ、と。

その通りかもしれないが、そうでないかもしれない。1990年代末の検索業界は競争が盛んだったのに対し、今では自然独占、つまり2番手が成功することは非常に難しい状態にあるといえそうだ。

なぜなら、検索結果の有用性を向上させるための最善策のひとつは実例の分析だから。過去に同じキーワードを検索した人は最終的にどのリンクをクリックしたのか、検索者は過去に何を検索していたのかを分析することだ。

グーグルはそのデータをだれよりずっと大量に持っている。これはつまり、同社が今後何世代にも渡り、私たちがどのようにして知識を得るか、その決定権を握り続けるかもしれないということだ。

(英語記事 Just google it: The student project that changed the world

提供元:http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-39945251

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