前向きに読み解く経済の裏側

2017年5月29日

»著者プロフィール
閉じる

塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

 大学の学費を無償にすべき、という議論が行なわれています。小中学校は無料なのに、大学は有料なのはなぜなのか、考えてみましょう。

小中学校が無料なのは、小中学校教育が必要だから

(iStock)

 小中学校は義務教育です。義務を課しておいて授業料を徴収すると、貧しい子供が困りますから、無料にしているわけです。では、なぜ義務なのでしょうか? それは、小中学校へ行かない国民が多いと、不都合が生じるからです。まずは、読み書きが出来ない大人は「健康で文化的な最低限度の生活」を送ることが難しいでしょう。「進入禁止」の立て札が読めなければ悲劇です。

 それから、日本は民主主義国家ですから、字がよめない人も選挙の投票権があります。でも、日本国の行く末を決める選挙ですから、しっかりと候補者の主張等を理解した上で投票してもらいたいですよね。加えて、最低限の社会の仕組み等々も主権者として理解しておいてもらう必要があるわけです。せめて、小中学校で教えている事は理解した上で投票して下さい、というのが第二の理由です。

 今ひとつ、日本経済が発展するためには、人々が優秀な労働力として働いてくれることが必要です。最低限の読み書きや、それ以前に「遅刻しないで学校に来る訓練」なども必要でしょう。

 「小中学校へ行かない人と行った人で生涯所得が違うのだから、小中学校へ行くか否かは個々人に任せるべき」という意見もあり得るでしょうが、皆が小中学校へ行くことが、行った人以外の日本人にもメリットになるなら、その費用は税金で負担しよう、というわけです。経済学では、これを「外部経済」と呼んでいます。

「授業料は貸与して、卒業出来たら免除」すべき

 大学教育は、受けなくても「健康で文化的な最低限度の生活」には支障がないでしょう。大学へ行かなくても、選挙の投票で困ることはないでしょう。国民の多くが大学で学べば、日本経済が発展するということはあるでしょうが、「小中学校へ行くか否か」の差と比べれば、大学へ行くか否かの差は小さいでしょう。そう考えると、大学進学を義務化して無償にするということは考えにくいでしょう。あとは、「進学するか否かを自由にして無償にすべき」か否か、でしょう。

 小中学校は、実際には勉強していない生徒もいますが、建前としては教師が子供に勉強させることになっています。一方で、大学生の中には、真面目に勉強している人もいますが、そうでない人も大勢います。大学生が勉強しなくても、教授は勉強させる義務はなく、勉強しない学生が卒業できないリスクを考えて自己責任でサボることができるのです。

 どう考えても勉強していない学生の学費を税金で払ってやるのはマズいでしょう。それから、真面目に学んだとしても、大学入学時の学力が低いと、せっかく大学に通っても得られる物が多くないでしょう。それならば、そうした学生の学費も、税金で払ってやる理由が乏しいでしょう。

 無償化した場合の今ひとつの問題は、全く学ぶ意志がない自営業者など(勤務先が許せばサラリーマンも)が「学割等(大学のテニスコートの利用権等々を含む)」を使う目的で入学してくることです。大学は、出席しなくても在学していることが可能です。4年制大学は、8年で卒業できないと退学処分になる場合が多いようですが、そうなったら別の大学に入学すれば良いのです。何と言っても、定員割れの大学は多いのですから。そうした学生の学費を、国が税金で払ってやるのは、さらにマズいでしょう。仮に払ってやると、表面的な学生数だけが猛烈に増えて、税金による授業料の負担は巨額になりますし、「定員割れ」の大学が努力しなくても学生が集まりますから努力するインセンティブを失ってしまうという問題も生じます。

 そこで、「センター試験の得点が平均以上であった者については、授業料を貸与する。5年以内に卒業した場合には返済を免除する」といった制限をかけることが合理的だと思われます。優秀な学生が真面目に勉強して大学を卒業するならば、日本経済への貢献などを考えて、学費は税金で負担しよう、というわけです。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る