百年レストラン 「ひととき」より

2017年7月24日

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菊地武顕 (きくち・たけあき)

1962年、宮城県生まれ。編集者・記者。「E
mma」「女性自身」「週刊文春」「週刊朝日」と、25年以上にわたって週刊誌編集部で働く。著書に『あのメニューが生まれた店』(平凡社)。編書に「日本全国 おいしいものお取り寄せ」(文春文庫)。

 

中庭の池には巨大な錦鯉が悠然と泳ぎ、浅草の中心にいることを忘れてしまいそう。中央の建物が、一番古い離れ

店舗を構えるにあたって名物を

 「ひとところに店舗を構えて落ち着きたい、高級志向の店にしたいという思いが強かったのでしょう。池のある中庭を作り、それを囲むような数寄屋造りにしました。お座敷の個室で、ゆっくりとくつろいでいただきたいと。うちは関東大震災で潰れ、戦争で焼け、そのつど建て替えているんですが、当初の造りを踏まえています」 

 立派な店を構えた以上、何か名物を作らねばならない。そう考えた鐵蔵氏が始めたのが、巨大なかき揚げだった。芝海老と青柳の貝柱。食材としては定番のものだが、その大きさが評判を呼んだ。

 やがて、常連だった仏文学者の辰野隆(たつのゆたか)氏が、「雷神揚げ」と名付けた。雷門に立つ雷神の太鼓に似ているからだという。

車海老5本がのる海老丼(2,800円)。甘さ控え目のタレをほどよく吸った衣も美味く、上品な味わい

 この名物は、店主だけが揚げることを許される。今回、厨房にお邪魔してキスや穴子などを揚げる様子を見学・撮影させていただいたが、「雷神揚げ」については許可をいただけなかった。

 一子相伝の逸品を食べてみると、サクッ(ひょっとしてパリッの方が近いか?)とした衣に、しっとりジューシーな具材。これだけ分厚いのにもかかわらず、どの部分にも均一に火が通っていることに感動する。「熟練の技が必要なんでしょう?」と尋ねると、「初代の頃は炭だったでしょうから、油の温度が安定してなくて大変だったでしょうね」とだけ答え、笑みを見せた。

胡麻油を使い魚介類だけを揚げる

 ところで東京の伝統的な天麩羅には、ふたつの特徴がある。

 「今ではまったく信じられないんですが、昔は隅田川で白魚が獲れたそうです。豊富な江戸前の魚介類を香り高い胡麻油で揚げるのが、江戸前天麩羅。

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