<好評3刷>(2009年2月)
自然への尊崇、美への感動、それを高らかに歌ったのが万葉集の歌だった。それらは、大地、自然と対面し、その豊かさや神々しさを十分に汲みとった歌々である。そこからは、大地の豊かなにおいにつつまれた人間の息づかいが聞こえてくる。万葉の歌を求める旅は、心の糧を求める旅でもある――。
「田児の浦ゆうち出でて見れば真白にそ不尽の高嶺に雪は降りける」 山部赤人
赤人が強調するのは純白の雪だ。その白さは、神々しさを感じる気持が、残すところなく表現されている。神々しさにひれ伏す心は古代の歌人としての、自然への尊敬を示しているが、同時にそれは美しさへの感動でもあった。尊いものの美しさ、恐ろしいほどの美しさ、そうした自然の正体の発見者が赤人だった。これも現代人が忘れたものではないか。自然を破壊し、自然を軽んじる現代文明に、十分な反省をもたらすものが万葉の歌だといってもよい。