2024年4月27日(土)

No Science, No Business

2010年10月22日

 一方両眼輻輳は、目がどれくらい寄り目になっているかの情報に基づく。遠くにあるものを見るとき、両目は同じ方向に平行に向いているけれど、近くのものを見るときは、中央を向いて寄り目になる。この時の目を動かす筋肉の緊張度合いの感覚が脳内で情報処理されて、立体感イメージが作られる。


過去のブームも現在の3D映画も、さらに最近の3Dテレビや3Dゲームも、ハードウェア的には、この二つの原理に基づく映像を作るものでしかない。

 しかし、ここで重要なのは、我々がありありと感じている外界のイメージは、本当は目から入る光の情報だけで成立しているわけではないということだ。

 実際、両眼輻輳は、筋肉の情報が手がかりになっているし、目のピントを合わせるときの筋肉の情報も脳に入力されている。

 また首や体を傾けると、目から入る映像はそのぶん傾くが、このとき三半規管が感じる重力の方向や、それに対応した全身の筋肉の緊張情報なども脳の中に入り、混ぜ合わされて情報処理が行われている。

 つまり、ものを見るとき、脳は目だけでなく、全身が感じる様々な情報を総合して、外界のイメージを作り出している。

 そのため、映像に集中しながら、他の情報が日常の経験と違うとき、たとえば映像はぐっと傾いているのに、三半規管が重力の方向の変化を感じないと、脳はいつもと違う奇妙な情報入力をどう解釈したらいいか混乱して、ストレスを受ける。その結果が、頭痛やめまい、吐き気といった症状になって現れる。

 これは3Dに限らず、視野いっぱいに広がる大画面の映像や、プレイヤー視線で行うゲームなどでもよく起きることで、「ダンジョン酔い」などを体験したことがある人も多いだろう。

 乗物酔いも基本的に同じメカニズムで起きる現象で、自分の意志ではコントロールできない、予想外の揺れに長くさらされると、視覚や三半規管、筋肉などの全身情報が普通と違った形で脳に入って、気持ち悪くなってしまうわけだ。

 3D映画の場合は、これに加えて、目を強く輻輳させる絵を見せても、スクリーン上の位置は変わらないため、目の焦点は遠いままという現象が起きて、これも脳にストレスを与えてしまう。

 逆にいえば、そういう視覚と感覚の齟齬が起きない、起きたとしても短時間で終わるような表現にすることで、3D酔いは抑えることができる。

 チキンリトル以降のハリウッドの3D映画は、この点に配慮して、3D酔いが起きにくい表現を意識するようになっている。これが今回、観客を遠ざけなかった一因になっている事は間違いない。

高まりつつあるリアリティ

 3D映像でもう一つの重要なポイントは、人間が感じる立体感は、両眼視差と両眼輻輳の二つの性質「だけ」で作り出されているのではないということだ。


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