2024年4月27日(土)

Wedge REPORT

2010年11月17日

 とはいえ、共和党の躍進に歩調をあわせるように、政府とGMの関係を取り巻く環境が変化しつつあることも見逃せない。

 第一に、財政赤字に対する問題意識が高まっている。GMに何らかのハプニングが発生した場合でも、支援を上積みするためのハードルは以前よりも高い。電気自動車の開発支援でも、財政への配慮が障害になりかねない。

 第二に、救済策の視点が変わってきている。共和党は「株価の最大化」を重視する。政府の保有株式を高値で売却し、投入資金を回収するためだ。当初は「雇用の確保」に配慮せざるを得なかったオバマ政権も、今回のIPOでは納税者負担の最小化にこだわった。今後の政府保有株売却の判断では、こうした傾向が一層強まると予想される。

自立に向け、
GMと政権の間で燻ぶりはじめた火種とは?

 GMは政府からの自立の道を歩むことになるが、両者の関係が争点となる火種は残る。

 第一は、自動車の燃費基準の問題だ。今年の10月にオバマ政権は、2017~25年の燃費基準の引上げを提案した。昨年5月にGMが2016年までの燃費基準の引上げに同意した際には、「政府に救われた」という事実が同社の判断を左右したといわれる。しかし、救済策が出口に向かい、政府の直接関与の色彩が薄れるに連れて、GMの発言にも自由度が増してこよう。このため、GMがこれ以上の燃費基準の引上げに難色を示したとしても、何ら不思議ではない。それでなくても先の中間選挙では、環境規制の強化に懐疑的な共和党が勢力を増している。オバマ政権が描く「官民一体となって次世代の自動車作りにまい進する」という構図にも、微妙な狂いが生じかねない展開である。

 第二は、GMの年金債務の問題である。退職者医療費関連の債務と違い、年金債務は再建の過程でも整理が遅れている。積立不足は270億ドルを上回るといわれ、2014~15年には合計100億ドルの積み立てがGMに求められる見込だ。もちろん、GMの業績が改善するに連れて、同社の年金財政も再建が進むと期待される。しかし、仮に同社の年金制度が破たんした場合には、既存の再保険制度では救いきれない規模になりかねず、何らかの納税者負担による解決が必要となる可能性は否定できない。実質的にGMの「再救済」に相当し、政治的には極めて厳しい議論が展開されよう。

 株式保有比率が50%を割り込んでも、政府が大口の株主であるという事実はすぐには変わらない。退任が決まっているローレンス・サマーズ国家経済会議委員長は、「8年以内に全ての政府株式を売却するべきだ」と主張していたという。

 完全自立に向けたGMの旅路は、まだ折り返し点にすらたどり着いていないのかもしれない。
 

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