あの負けがあってこそ

2018年6月1日

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 古武士を彷彿とさせる風貌。一瞬近寄りがたい雰囲気もあったが、威あって猛からず。総合格闘家、菊野克紀の無骨な第一印象は屈託のない笑顔によって裏切られた。

 鹿児島出身者らしくリング上の菊野のコスチュームには「敬天愛人」の文字が描かれている。

 柔道、極真空手、沖縄空手、総合格闘技、そして東京2020を目指したテコンドーへの挑戦と、36歳の今なお進化を遂げ続けているリアル侍の「あの負け」からの挑戦をご紹介したい。

菊野克紀さん(撮影:筆者)

何もできないまま負けてしまった

 総合格闘技の最高峰UFC(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)。菊野はこの大舞台に2014年1月に参戦し2勝1敗。正念場を迎えた4戦目の相手はケヴィン・ソウザ。ブラジルの強豪である。菊野に比べてリーチが長く、そのうえ構えも低くて懐が深い。

 「ケビンはスピードもあるし、僕より20cmもリーチが長いんです。こいつはやばい。入ったらやられると思いました」

 しかし、じりじりと間合いを詰められてしまい、菊野が飛び込んだところ、その一瞬を捉えられてパンチ一発で沈められた。

 「破れかぶれで入っていった瞬間に決められてしまいました。相手の術中に完全にはまってしまった試合です。UFCは格闘技の最高峰なのでここでは勝つことに最大の価値があります。だから、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたいという思いが強く、勝ちたいがゆえに負けられない。負けられないから攻められない。そういった状況に陥ってしまったのだと思います。その前の3戦に比べて慎重になりすぎてしまいました」

 続く第5戦目は同じくブラジルのディエゴ・ブランダオン。UFCは連敗すると解雇されると聞いている。菊野は崖っぷちに追い込まれた。それだけに勝ちたいという意識は前回以上に強く、しっかりと準備を整え試合に臨んだ。しかし……

 「秒殺されました。あのときは心が折れそうになって絶望しました」

 「本当になにもできないまま負けてしまったのです。圧倒的な実力差があって負けるならまだ納得ができるのですが、なにもしていないうちにポンと食らって、ばたっと倒れたみたいな負け方でした」

 ケヴィン・ソウザ戦の轍は踏むまいと慎重に相手を見ているうちに一気に間合いに入られ決められた。やはり、勝ちたいがゆえに負けられない。負けられないから攻められないという悪循環に陥った。

 どちらも「自分らしくない」試合だったと菊野は言う。

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