ちょいとお江戸の読み解き散歩 「ひととき」より

2018年7月26日

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牧野健太郎(読み解き) (まきの けんたろう)

ボストン美術館と共同制作した浮世絵デジタル化プロジェクト(特別協賛/第一興商)の日本側責任者。公益社団法人日本ユネスコ協会連盟評議委員・NHKプロモーション プロデューサー。浅草「アミューズミュージアム」にてお江戸にタイムスリップするような「浮世絵ナイト」が好評。

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近藤俊子(構成/文) (こんどう としこ)

編集者。元婦人画報社にて男性ファッション誌『メンズクラブ』、女性誌『婦人画報』の編集に携わる。現在は、雑誌、単行本、PRリリースなどにおいて、主にライフスタイル、カルチャーの分野に関わる。

[執筆記事]

 富士山がユネスコの世界文化遺産に登録されたのは2013年6月。その決定に一役かったといわれる北斎さんの「冨嶽三十六景」シリーズの1枚です。さて、この絵に富士山が見えないのは何故でしょう。

葛飾北斎「冨嶽三十六景 諸人登山」
Photograph © 2018 Museum of Fine Arts, Boston. All Rights reserved. William S. and John T. Spaulding Collection, 1921 21_6789

7人の菅笠と北斗七星

 葛飾北斎さんの「冨嶽三十六景 諸人登山(もろびととざん)」は、シリーズ46枚の中で唯一、富士山の美しい山容がどこにも描かれていない作品です(①)。天保2年(1831)頃、北斎さんが古稀(70歳)過ぎに描きました。

 この浮世絵に描かれているのは、お江戸からやってきた30人ほどのアルピニストの皆さん。髪をおろし、菅笠(すげがさ)姿で頑張って登ってきたのです。富士の姿が見えないのは、富士山そのものの山頂辺りを描いているからです。

 ところで、憧れの富士山、夢の富士山を登っているのに、皆一様に暗い表情で笑顔がありません。何故楽しんでいない? 喜んでいない? そう、お江戸の富士登山は修行です。そして寒いのです、とっても寒いのです。日の出前は、気温が下がり、火もありません。お山の空気はしっかり冷えています。東の空がうっすらと淡いピンク色に描かれています(②)。夜明け前、ご来光はもうすぐ。みなあの神々しい陽の光を待っているのです。

左(①)、右(②)

 さて、洞窟のような、岩室(いわむろ)のようなところに、ザンバラ髪の人たちが身を寄せるようにして集まっています(③)。当時、富士山を聖なる場所として信仰する「冨士講」が大流行。「江戸は広くて八百八町、講は多くて八百八講、江戸に旗本八万騎、江戸に講人八万人」といわれたほどです。この方々は、その富士講の仲間から選ばれた特別な人たちなのです。

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