チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年5月11日

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城山英巳 (しろやま・ひでみ)

時事通信社外信部記者

1969年生まれ、慶應義塾大学文学部卒業後、時事通信社入社。社会部、外信部を経て2002年6月から07年10月まで中国総局(北京)特派員。 外信部を経て11年8月から2度目の北京特派員。11年、早稲田大学大学院修士課程修了。現地での中国取材は10年に及ぶ。16年5月に帰国し、現在外信部記者。近著に『中国 消し去られた記録〜北京特派員が見た大国の闇』(白水社)、著書に『中国臓器市場』(新潮社)、 『中国共産党「天皇工作」秘録』(文春新書、「第22回アジア・太平洋賞」特別賞受賞)、『中国人一億人電脳調査』(文春新書)がある。14年に戦後日中外交史スクープで13年度「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。

 中国・北京で4月第4週目は、大々的な「清華大学ウィーク」になった。理系の名門・清華大創立100周年を迎えたためだが、胡錦濤(国家主席)―習近平(国家副主席)と同大出身者が2代続けて最高指導者に就き、清華を党内最大学閥と位置付ける政治的匂いがするイベントだが、この清華キャンペーンの「主役」は同大出身の朱鎔基前首相、「隠れた主役」は同大とは関係ない温家宝首相だったのではないだろうか。

「清華」時代に水差した朱鎔基

 清華大学水利工程系を卒業した胡錦濤は4月20日、母校を訪れ、古き学友と懇談。「当時を回想するとわれわれは清華園で共に学び、一緒に生活し、忘れ難い時を過ごし、厚い友情を結んだ」と珍しく感慨に浸った。また24日、政治局常務委員6人が顔をそろえて人民大会堂で開かれた清華大創立100周年大会で演説した胡は「われわれの大学は事業発展の強大な力になった」と絶賛した。

 「共産党指導部が幹部を登用する際、清華、北京両大学のバランスを考慮する」と指摘するのは共産党の中堅幹部だ。現在の政治局常務委員のうち胡錦濤、呉邦国全人代委員長、習近平は清華大出身、次期首相の呼び声が高い李克強副首相は北京大出身。今回の大会は「清華閥」全盛時代を謳歌するような舞台と化した。

朱はなぜ政権批判するのか?

 香港紙『明報』(4月23日付)が報じているが、朱鎔基が母校を訪れたのは4月22日だった。学生と交流した朱は、まさに言いたい放題。その場にいた清華の学生が中国版ツイッターのマイクロブログ「新浪微博」で朱鎔基の様子を実況中継したところによると、こう言い放ったという。

 「毎日7時から7時半まで中央電視台(国営中央テレビ)を必ず見て、でたらめを言っていないかチェックしている」

 「上海モーターショーでは超高級車が売れるのに、非常に多くの貧しい子供は学校にも行けない」

 「日本の大地震では子供でさえも『処乱不驚』(騒ぎに処して驚かず)。民度とは基礎教育によって作り上げられるものだ」

 特に中央電視台夜7時からのニュース番組「新聞聯播」は、胡錦濤から序列順にその日の国家指導者の視察や会議の様子を伝える権威あるプロパガンダ番組。これを揶揄し、貧富の格差や国民性の問題点にまで踏み込んだ朱鎔基の発言は、「嘘」で覆われた共産党の現実を憂い、嘆いたものだった。朱の発言は当然のことながら、プロパガンダメディアでは報じられないが、胡錦濤といえども、老幹部の忠告は無視できないのが中国政治の世界である。

 中国筋の間では、朱の痛烈な批判は、後任首相である温家宝に向けられたものという見方があるが、筆者はそう見ていない。同様の考えを持ち発言を続ける温家宝への擁護ではないだろうか。

「沈黙」破った温の政治改革発言

 筆者は本コラムで「温家宝論」についてたびたび触れてきたが、もう一度簡単に経緯を紹介しておこう。温は昨年8月から10月初めにかけ政治改革への決意を強調し続け、その回数は8回に上った。「風雨無阻、至死方休」(困難に負けず、死ぬまでやり抜く)(10月3日放映の米CNNのインタビュー)

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