公立中学が挑む教育改革

2018年9月3日

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多田慎介 (ただ・しんすけ)

ライター

1983年、石川県金沢市生まれ。大学中退後に求人広告代理店へアルバイト入社し、転職サイトなどを扱う法人営業職や営業マネジャー職を経験。編集プロダクション勤務を経て、2015年よりフリーランスとして活動。個人の働き方やキャリア形成、企業の採用コンテンツ、マーケティング手法などをテーマに取材・執筆を重ねている。

「お会いするたびに『この人にはかなわないな』と思うんです」――。工藤勇一氏が、深い尊敬の念を込めてそう評する人がいる。大阪市立大空小学校の初代校長を務めた木村泰子氏だ。「すべての子どもの学習権を保障する」という理念を掲げ、教職員や地域の人々とともに新たな学校づくりのあり方を示した木村氏。その取り組みは『みんなの学校』として映画化され、教育関係者を中心に数多くのフォロワーを生み出している。日本の教育改革のために情熱を捧げる2人は、どのように共鳴し、何を語り合うのか。シリーズ特別編として、その対談模様を紹介したい。

工藤勇一氏・千代田区立麹町中学校校長(左)と、木村泰子氏・大阪市立大空小学校初代校長(右)

人間は、見えやすいところばかり見るもの

工藤:木村さんが子どもたちや教職員、地域の人々と一緒に作った大空小学校には、校則や決まり事がほとんどありませんね。普通の学校には何かしらあるものなのに。

木村:掲げたのは「すべての子どもの学習権を保障する」という理念だけです。虐待されていようが障害があろうが、どんな環境であろうが、地域の宝である子どもは誰一人として排除されてはいけない。だから「みんなの学校」なんです。校則や決まり事を作ると、教員がそこばかり見てしまって子どもを見なくなります。

▼映画『みんなの学校』

工藤:そうですよね。昔から「服装や頭髪の乱れは心の乱れ」だなんて言われていますが、私は教員になる前からそんなふうには思っていませんでした。今も変わりません。

木村:教師が見るべきところは服装や頭髪ではないですからね。映画『みんなの学校』に、とある管理作業員が出てくるシーンがあります。彼は開校3年目に大空に来たんですよ。最初はピアスをして、髪は金色に染めていました。前に勤めていた中学校では欠勤が多い「問題職員」だったそうで、前任校の教頭がわざわざ私に「何も教育ができていなくて申し訳ありません」と申し送りをしてきたんです。

工藤:そんなことがあったんですか。

木村:彼にまつわる面白い話があって。学校作りに協力してくれていた地域のおばちゃんがある日、血相を変えて私のところに来たんですね。「校長先生、新しい管理作業員さん、あれはあかんわ」と言うんです。「どうして?」と聞いたら、「あんな髪の毛でピアスもして、子どもたちに悪影響やわ」と。

工藤:木村さんは何と答えたんですか?

木村:「そうなの? それやったら、彼の髪の毛やピアスを見ないようにすればええんちゃう?」と。

工藤:その切り返し、いいですね!

木村泰子氏:大阪市立大空小学校初代校長。「みんながつくる みんなの学校」を合い言葉に、すべての子どもを多方面から見つめ、全教職員のチーム力で「すべての子どもの学習権を保障する学校をつくる」ことに情熱を注ぐ。学校を外に開き、教職員と子どもとともに地域の人々の協力を経て学校運営にあたるほか、特別な支援を必要とされる子どもも同じ教室でともに学び、育ち合う教育を具現化した。2015年春、45年間の教職歴をもって退職。現在は全国で講演活動などを行う。

木村:そんな彼が、ある日校長室にやって来ました。当時は管理作業員の仕事の中に、「ポストに届けられた朝刊を校長室に届ける」というものがあったんです。彼はそれについて「あんたの新聞を届けるのが俺の仕事か?」「読みたい新聞があるなら、自分で取りにいったらええんちゃうか?」と言ってきた。私はそれを聞いて「その通りや!」と言いました。

工藤:なるほど。管理作業員として定められた仕事の中に、謎のタスクがあると。

木村:ええ。彼は学校で働くにあたり、父親から「いちばん困っている子どものそばにいてあげろ。それがお前の役割だ」と言われていたそうです。でも前の学校では、「管理作業員は子どもに関わるな」と言われていた。子どもに関わるのは教員の仕事だと。それが欠勤の理由だった。

私は、朝刊が読みたいなら校長自身が取りにいけばいいという彼の意見は至極まっとうだと思いました。だから「あんたは、あんた自身の子どものための仕事をするべきやな」と言いました。真に子どものことを考えて、子どものために働く職員の一人なのだから。

工藤:おっしゃる通りですね。

木村:人間は、見えやすいところばかり見るものです。でも本当は見えないところを見ようとする大人でなければいけない。一生懸命に子どもたちのために働く彼の姿を見て、「あれはあかんわ」と言っていたおばちゃんもすっかり味方になりました。何カ月か経った頃、また校長室に来てこう言うんですよ。「彼のピアスが変わったの、気づいてはります? 前よりもお洒落になりましたよ」って(笑)。

工藤:素敵なエピソードですね。

木村:彼からは「見えないところを見るのが人として大事なことなんだ」と教えられました。それは教員も地域の方々も、もちろん子どもたちも。

工藤:今のお話を聞いて、思い出したことがあります。まだ教員になりたての頃ですが、子どもたちが靴のかかとをつぶして廊下を歩いていても、私はそれにまったく気がつけなかったんですね。よく、他の教員に「なんで工藤さんは注意しないの?」と言われたものですが、いくら言われても、なかなかそんなところには目が行かなくて(笑)。

木村:だけど「かかとばかり見る」先生が多いのよね。

工藤:かかとつぶしもそうですが、ピアスや髪染め、そのほか問題だと言われていることのほとんどは、「大人が問題だと言うから問題になる」のだと私は思います。教員が問題だと言えば言うほど、子どもたちはそれを意識するようになっていきます。

「かかとをつぶして靴を履いたり、ピアスをしたりすることで心が乱れる」というのは大人が作り出してしまった幻想です。わざわざ問題を作り出し、結果として子どもたちに戦うフィールドを与えてしまっているようなものだと思います。

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