WEDGE REPORT

2018年10月8日

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中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

配車サービスからスタート

 まずは両社が共同出資した新会社「モネ・テクノロジーズ」を活用して、配車サービスなどの事業を開始する。その先には、トヨタが20年代半ばまでに開発する計画の完全自動運転車「イー・パレット」の普及も視野に入れている。商品を自宅まで運んでくれる移動型の無人コンビニや、患者を診察しながら病院まで送り届ける自動運転車など、ドライバーの要らない移動サービスの実現を目指そうとしている。

 日本企業が苦手としてきた、ハードとソフトを融合させて、社会インフラまで構築する新しいプラットフォームを世界に先駆けて生み出そうとしている。モビリティを軸にして、これまで欧米企業に先を越されてきた社会インフラを作ることができれば、技術立国ニッポンがインフラ作りでも優位に立つことができ、人口の減少で影が薄くなりがちな日本のプレゼンスを世界に誇示できる。

 孫社長は「AIを使ってモビリティプラットフォームを活用して未来の需要を当てはめていく」という表現を使い、具体的にはこのプラットフォームにより「世界で年間125万人が死亡している交通事故をなくしたい」と語った。「モネ・テクノロジー」が発展していけば、今回の「強者連合」は単なる日本の2大企業の提携と言うよりも、人類の歴史を塗り替えるほどの意義のあるものだったと振り返ることになるかもしれない。

どうなる優先順位

 その場合に問題となるのが、両社がこれまで組んできている提携、友好関係をどのように整理するかだ。トヨタはこれまでに携帯電話ではソフトバンクのライバルであるNTTグループやKDDIと、次世代通信規格「5G」のコネクテッドカー(つながる車)の活用で提携関係にある。一方、ソフトバンクがトヨタのライバルである米大手自動車のGMのライドシェア用自動運転車を開発するGMクルーズと提携している。そのGMは10月3日にホンダと自動運転で提携し、ホンダはGMクルーズにも出資すると発表した。

 こうなると、片方の手で握手しながら、別の手では握手した相手のライバルとも提携する関係になり、相関関係がこれまで以上に複雑になってくる。提携関係にある会社にしてみれば、「一体どっちの味方なのか明確にしてくれよ」ということになる。この日の会見では、この件について両首脳からの発言は聞かれなかったが、いずれは優先順位をつける経営判断をしなければならなくなる。

 「100年に一度の大変革の時代に、これまでの関係を気にしていては時代に取り残されてしまう」と断言してしまえばそれまでだが、日本の大企業のトップがこうした決断ができるかどうかも注目点の一つになる。豊田社長、孫社長がどのような選択をするのか、これまで両社と提携関係を築いてきた企業にとっては気が気ではないはずだ。

まだ続く合従連衡

 AI、自動運転の技術は日進月歩で進化している。その展開次第では、期待されていた新技術がすぐに陳腐化してしまうリスクがある。電気自動車(EV)が中心になる自動運転では、バッテリーの技術開発の行方が注目されており、航続距離の長い短時間で充電できる画期的な新型バッテリーが実用化できれば、一気に自動運転車の構図が変わる可能性がある。それだけに、自動車業界を含む移動体サービスビジネスをめぐる合従連衡が、これで確定したとは言い難いところがある。

 日本企業はハードを含むモノ作りには競争力を発揮してきたが、EVになると部品点数が少なくなり、日本企業が得意としてきた匠の技術はそれほど必要なくなる。代わりに求められるのが、移動体サービスを制御する技術など、全体状況を把握しながら人手をかけずにコントロールするAIを駆使したソフト技術、ノウハウが重要になってくる。この分野はまだ確立されたものがないだけに各社が開発にしのぎを削っている状況だ。

  
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