World Energy Watch

2018年10月16日

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再エネを見限った豪州連邦政府

 今年8月下旬、豪州連邦政府の政権を担当する保守連合内部の内紛により、ターンブル前首相が辞任し、蔵相であったスコット・モリソンが新首相に就任した。この内紛の原因がエネルギー政策を巡る対立だったことは、日本ではあまり報道されなかった。

 ターンブル前首相は、「全国エネルギー保障-NEG」という新政策を提案していた。この政策では、電力の小売り業者が競争力のある電力の安定供給を保証する一方、2030年に2005年比二酸化炭素を26%削減する責任を持つとした。一部のメディアからは、ミッションインポシブルと呼ばれた政策だったが、与党内からも州政府からも支持を取り付けることができず、辞任の引き金になった。

 与党内では、パリ協定を批准し26%削減目標を定めたアボット元首相が、「大排出国がパリ協定から抜けた今、なぜ豪州が守るのか」とNEGに強く反対したと言われている。この背景には労働党政権の州政府が、温暖化対策として再エネ導入と石炭火力離れを進めた結果、停電が発生するようになったこと、また電気料金が大きく上昇したことに対する不満があった。石炭、天然ガスと輸出するほどのエネルギー資源を持ちながら、小売り電気料金は過去10年間で2倍近く上昇したが、再エネ導入政策実行の急先鋒は南オーストラリア州だった。

 南オーストラリア州は風力を中心とした再エネ導入を進めた結果、需要量の半分近くを風力発電が供給するようになった。一方、石炭火力発電所は廃止され、天然ガス火力が残りの需要の大半を供給する体制になった。その結果、需要急増時に風力発電が十分な発電ができないと停電が発生するようになった。2016年の嵐の際には、送電線の切断により稼働していた120万kWの風力発電設備全てが、設備保護のため停止し全州の停電が引き起こされた。不安定な風力発電を補うため、州政府は米テスラから送電網の中に蓄電池を導入する一方、揚水発電所の企業化調査を実施しているが、既に、電気料金はデンマークを抜き世界一高いレベルにあると現地では報道されている。

 モリソン新首相は、NEGを放棄することを宣言する一方、大切なのは電気料金と安定供給と宣言し、新エネルギー大臣をツイッターで、「電気料金引き下げ大臣」と呼ぶほどだ。首相はパリ協定離脱は行わないと宣言したが、努力なしに達成可能とし、また資金拠出については行わない意向としており、温暖化対策のため再エネ導入を連邦政府が促進することはなさそうだ。石炭火力の新設を促進する可能性は高いだろう。

再エネ導入が招く停電

 再エネ導入量が増えれば、火力発電などの安定的な発電設備の稼働率が低下、収益を生まなくなり、設備の維持が困難になる。天候によっては南オーストラリア州が経験したように停電の可能性も出てくる。温室効果ガスを排出しない再エネの導入を進めることは必要だが、安定的な供給を行うための蓄電池などのコストはまだ高く、需要家に届いた時の再エネのコストは高くなる。

 停電になれば、社会的な混乱が生じる。まず、安定的な供給を確保することが必要だが、そのためには再エネをバックアップする安定的な発電設備が必要だ。自由化された電力市場では、再エネの増加が稼働率、収益力が落ちた設備を駆逐する可能性がある。出力制御が必要なほど再エネが増える事態は、安定的な設備維持に黄色信号が灯ったとも言える。価格、安定供給の問題をよく考えながら再エネ導入のスピードを調整することが必要だ。

  
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