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2018年10月17日

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ドナルド・トランプ米大統領は16日、殺害されたと疑われるサウジアラビア人記者について、同国の皇太子は消息を知らないと話したと明らかにした。一方で、在イスタンブールのサウジアラビア総領事館内をトルコ警察が捜査したところ、殺害の追加証拠が得られたと、トルコ当局者が匿名で報道機関に話している。

トランプ大統領はAP通信に対して、政府批判を繰り返していたジャマル・カショジ記者をサウジアラビア当局が総領事館で殺害したと言われているのは、「推定無罪の原則」とは逆の、「無実が立証されるまで有罪」扱いされる事例のひとつだと述べた。

カショジ記者は以前はサウジ王家と親しかったが、サウジアラビアで圧倒的な権力を持つムハンマド・ビン・サルマン皇太子の政策について批判を重ね、最近はサウジを離れて米国を拠点に活動していた。10月2日にはトルコ人婚約者との結婚に必要な書類手続きのため、在イスタンブールのサウジアラビア総領事館に入ったが、それきり消息を絶っている。トルコの捜査当局は、記者が領事館内で殺害されたことを示す複数の証拠を得ていると主張するが、サウジ側はこれを否定。当初は、記者が無事に領事館を出たと主張していた。

ムハンマド皇太子の主張は

カショジ記者はムハンマド皇太子の政策に批判を重ねていただけに、皇太子が殺害を指示したと受け止めている人は多い。

一方でトランプ大統領はツイッターで、皇太子と電話で話したところ「トルコの総領事館で何があったのかまったく何も知らないと言っていた」と書いた。トランプ氏によると皇太子は、「本件について完全で徹底的な捜査がすでに始まっているし、速やかに拡大すると説明した」。「近く答えが出る」とトランプ氏は書いた。

トランプ政権はマイク・ポンペオ国務長官をサウジアラビアの首都リヤドに派遣。長官は16日、皇太子と会談した。

トランプ大統領は前日には、「行きずりの殺し屋」のせいではないかと記者団に話した

一方で、米与党・共和党の重鎮でトランプ大統領にも近く、米・サウジアラビア関係を強力に推進してきたリンジー・グレアム上院議員(サウスカロライナ州選出)は、ムハンマド皇太子を強い調子で批判した。

上院議員は16日朝、保守系フォックスニュースに出演し、皇太子を「(建設解体用の)鉄球」と呼び、「こいつは追い出さないとだめだ」と述べた。

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捜査の状況は

総領事館の家宅捜索は15日午後から16日未明まで続いた。カショジ記者が失踪して以来、トルコの捜査員が総領事館内に入るのは初めてだった。サウジアラビア当局者の一団が館内に入った約1時間後に、トルコの捜査員たちが中に入った。サウジ当局者たちが到着する前には、清掃員たちが館内に入る様子が目撃されていた。

敷地内の庭の土や鉄の門などから鑑識課員が証拠を採取したという。

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は記者団に、捜査陣は「毒性物質や、そうした毒物の上に塗料を塗って消そうとした跡」など様々なものを調べていると話した。

16日には総領事館から約200メートル離れた領事公邸の家宅捜索も予定されていたが、延期された。トルコ当局によると、「合同捜査」と銘打たれた捜索にサウジ当局者が誰も立ち会えないからだという。

カショジ記者は無傷で総領事館を出たと主張していたモハマド・アル・オタイビ総領事は16日、民間機でサウジへ帰国した。

トルコ・メディアが公表した防犯カメラ映像には、カショジ記者が2日午後1時14分に総領事館に入る前に、黒塗りの外交車両が総領事館に乗りつけ、さらにその後に総領事館から総領事公邸に移動する様子が映っている。

カタールのニュースチャンネル、アルジャジーラは、トルコ司法長官事務所の話として、カショジ記者が総領事館内で殺害されたことを裏づける証拠を入手したと伝えている。

さらに複数の通信社が、総領事館内で記者が殺害されたという追加証拠を得たと、匿名トルコ捜査筋の話として報道した。

ロイター通信はトルコ当局者の話として、「強力な証拠」を得たが、決定的なものではないと伝えた。

トルコ警察は当初から、記者殺害の音声証拠を得ていると主張。防犯カメラ映像に入国と出国が映っている15人強のサウジ情報部員が、総領事館内で記者を殺害したと、当初から断定している。

トルコの一部報道では、建物内で記者の体を切り刻んで解体したという説も取りざたされている。

米紙ニューヨーク・タイムズと米CNNは15日、匿名消息筋の話として、サウジ政府はカショジ記者が尋問中の手違いで死亡したと認める方針だと伝えた。


<解説> 評判に決定的な染み――フランク・ガードナー BBC安全保障担当編集委員

厳罰や対抗措置など厳しい言葉が米国とサウジアラビアの間で最近飛び交ったが、それもどうやら、一番ましな説明を両国で模索しようという方向で落ち着いたようだ。73年に及ぶ戦略的協調関係が本件で引き裂かれたりしたら、双方にとって莫大な損失になることは、どちらの国の指導者も承知している。

米国の防衛の傘をサウジが失えば、誰より得をするのは、中東におけるサウジのライバル、イランだ。

米国がサウジとの商取引をやめれば、米国で何千何万もの人が職を失い、中国やロシアがたちまち米国の後釜を狙うはずだと、トランプ大統領が言うのも正しい。

そこで浮かび上がるのが、さらに大きい問題だ。そもそも西側とサウジアラビアの関係というのは、総領事館の中で国家がジャーナリストを殺害したと大勢が思っているのに、それを非難し罰すべきという必要性を超えるほどに、そこまで大事なものなのだろうか。

この問題ゆえに、米政府は大急ぎで国務長官をサウジアラビアに派遣し、相手の首脳陣と会談させた。外部の目が届かないところでは、両国とも強い言葉をおそらく交わすだろう。しかし公の場では両国とも、一致団結した姿を見せようとするかもしれない。

確かなことはひとつある。両国がこの事態をどのように説明しようとするにしても、サウジ王家の真の実力者、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の国際的な評判には、この件で決定的な染みがついた。


(英語記事 Jamal Khashoggi: Saudi crown prince 'denies knowledge' of missing critic

提供元:https://www.bbc.com/japanese/45885486

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