130年前に予測?
中国版新幹線の衝突事故


岡本隆司 (おかもと・たかし)  京都府立大学文学部准教授

1965年京都市生まれ。中国近現代史研究者。サントリー学芸賞を受賞した『属国と自主のあいだ』(名古屋大学出版会)のほか、近著に『中国「反日」の源流』(講談社選書メチエ)などがある。

チャイナ・ウォッチャーの視点

めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリストや研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。(画像:Thinkstock)

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歴史はしばしば「鑑(かがみ)」にたとえられる。こちたき議論より、はるかにくっきり物事の実相を映し出すことがあるからである。現状には至って疎い歴史屋も、折にふれてそんな「鑑」の紹介なら、できなくはない。そこで筆者も、時評の末席を汚させてもらう。

日本人にとって不可解な存在

 一衣帯水の近きにある中国は、その距離とは裏腹に、ほんとうに不可解な存在である。よくもこれだけ次々と人を驚かす事件を起こしてくれる、というのが、平均的日本人の率直な感慨ではあるまいか。

 日本に問題がないわけではない。原発事故などは国内の被害はもとより、世界にも多大な迷惑をかけた。とはいえ、それは日本の原子力政策が、「絶対安全」という技術上ありえない隘路に迷いこんでいたからであって、そのため事後ではあれ、起こってもおかしくなかった、と合点はゆく。しかし中国はちがう。典型的なのは、最近おこった高速鉄道事故である。

 中国浙江省温州で7月23日夜に起きた高速鉄道の追突・脱線事故は、いわゆる新幹線の事故だけに、日本人の耳目をそばだたせている。中国の人々はそんな日本人の姿勢を厭わしく思っているようだが、あれだけ鳴り物入りではじめて、他国の技術を使っておきながら、独自の技術だと言い張り、特許まで申請したのだから、関心を持たれても、それは応分の報いというものである。

科学技術と相性が悪い中国

 ところがいくら目と耳をはたらかせても、外国にいる身では、あまりに情報が少なく、謎が多い。と思いきや、そうした謎は中国国内でも、日本で見るのに劣らず、謎のようである。それに拍車をかけているのは、どうも当局の隠蔽工作らしい。その種の工作は中国共産党下の統治につきものではある。それでも事故車輛を地中に埋めるなど、いったい何を、何のために、こんな方法で隠そうとしたのか、われわれの理解を絶する。落雷や信号の誤作動・システムの欠陥など、少しづつその原因らしきものが公になりつつあるけれども、とってつけたような感覚は否めない。不信は容易に払拭されないであろう。

 だからいまは、事故の真因究明やそれにもとづく精確な論評解説は、専門家にも望み得ないのではなかろうか。また筆者自身、もともとそんなことをしようとも、またできるとも思っていない。ただ一連の報道をみて、過去の歴史に思い当たることがあった。それは昔も今も中国がみせる、科学技術との相性の悪さというべき一面である。

 われわれがふだん何気なく使っている鉄道というのは、考えてみれば、近代の精粋にほかならない。「精粋」などというと、電子機器を駆使した制動など、最新のテクノロジーを想起しがちだが、それもさることながら、そうした物理的な技術そのものを成り立たせる前提からして、そうなのである。

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著者

岡本隆司(おかもと・たかし)

京都府立大学文学部准教授

1965年京都市生まれ。中国近現代史研究者。サントリー学芸賞を受賞した『属国と自主のあいだ』(名古屋大学出版会)のほか、近著に『中国「反日」の源流』(講談社選書メチエ)などがある。

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