WEDGE REPORT

2019年1月20日

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小平尚典 (こひら なおのり)

フォトジャーナリスト

1975年に日本大学芸術学部写真学科を卒業。大学卒業後、渡英する。1年ほど滞在し、欧州を放浪。帰国後、エディトリアルカメラマンとして数多くの雑誌の仕事をする。もともとジャーナリスト志向が強く1980年に新潮社FOCUS(フォーカス)専属カメラマンとして、FOCUS創刊に参加。1987年家族を連れて米国ロサンゼルスに移住、今度は世界を相手に取材活動を開始する。2009年に22年間の米国生活にピリウドを打ち帰国。現在は東京在住で、米国での経験を生かしメディアプロデューサーとして新境地も開く。コヒラ・パーソンズ・プロジェクト代表取締役。GSI取締役。オクタビアレコード取締役。GOHANソサエティー東京事務局長。主な作品に『原爆の軌跡 The Road from Trinity』『4/524 日航123便御巣鷹山墜落事故写真集』『神が創った楽園タヒチ ゴーギャンを辿って』『シリコンロード』。片山恭一氏とは昨年『誰でもないもの』に続き、『そうだ、高野山がある』を出版した。

 

 2018年の昨年までは、インターネットが1995年から情報流通を根本的に変革させてきた。そして次に来るものは。それはブロックチェーンだろう。つまりブロックチェーンが価値流通を根本的に変革させる元年が2019年だと思う。

 このブロックチェーンはラグビーで言えば15人の塊(ブロック)の鎖(チェーン)である。司令塔からの指示でチームのメンバーがすべて動くという戦術は、確かに厳然とあるものの、オールブラックスに代表される最新のラグビー戦術では、敵のフォーメーションが崩れた状態からアタックするケースが多くなっている。現代ラグビーでは、個々の自立した判断も強く求められている。

 2015年ワールドカップでオール日本が南アフリカに歴史的勝利を挙げることができたのも、80分間のゲームプランを時間をかけて徹底してメンバーに落とし込み、それを一人ひとりが着実に遂行した結果といわれている。これが天理が帝京に、明治が天理に勝利した一つの学びだったんではないだろうか。

秩父宮ラグビー競技場大学日本選手権決勝観戦記

2人で突き刺さるようなタックルそれにチーム13人が見守る。いや、約150人の部員のすべての心のブロックチェーンが見守る。それに可視化できないクラウド応援も加わっていた(写真・小平尚典、以下同)

 今年はワールドカップ・ラグビー2019日本大会が9月20日から日本全国で開催される。はじめて日本から発信する世界ラグビーイヤーなのだ。すでにオールJapanが世界に通用するキーワードをいくつか持っている。つまり、「小さいものが大きいものを制する」ということだ。

 現代ラグビーでは、個々の自立した判断も強く求められている。オールブラックスに代表される最新のラグビー戦術では、敵のフォーメーションが崩れた状態からアタックするケースが多くなっている。ただし、ラグビーのゲームプランでは一人ひとりに事細かな取り決めがあり、2015年日本代表が南アフリカに歴史的勝利を挙げることができたのも、80分間のゲームプランを時間をかけて徹底してメンバーに落とし込み、それを一人ひとりが着実に遂行した結果といわれている。その膨大な準備こそが、スポーツ史に残る奇跡を起こし得たのだ。南アフリカ戦で勝利した方程式から学んだ原点はじわりじわりと、明治対天理のラグビー大学選手権決勝戦に生かされていた。そして、この試合が新しい日本ラグビーの進化だと確信した。

天理のフォワードの速いパスがゲームの組み立てをする基本である。そのスピードは大学で一番だ。つまり一体感がすばらしい。決勝戦はバランスが微妙に崩れてしまった。学生ラグビーの難しいところだ。若いチームなので来年の成長が楽しみだ

 そして個人技ではなく個々の判断ができる集団がコツコツと相手を倒す基本プレーが観衆を魅了した。明治は天理のロックのアシペリ・モアラ(1年)やNO.8のファウルア・マキシ(4年)のハイパワーの大型フォワードとCTBのシオサイア・フィフィタ(2年)を、とにかく15人のチェーンが楔を打つようにタックルし、皆が無駄のない動きをする姿を見てこれはちょっと面白い試合になると予感した。

 天理が帝京相手に戦った戦術を明治がじっくり冷静に研究したんだろう。そういう意味で明治は伝統校で関東で戦う情報戦に長けていたのだろう。じっくりロジックに考えた作戦を準備したのだろう。天理も関西という場で三連覇して自分たちを鍛えて来たのだろうが、経験からくる知識はその量で決まるから、難しい面もある。しかし、帝京を破った素晴らしいチームである。

明治のスクラムハーフからフルバックへの防御的な攻撃パス。フルバックの山中のキックは出来が悪いと本人が言っていたが、チームにとって力強い確実なキックはたくましい。だから前に出ていけるのだ。これこそが北島イズム

 試合をプレイバックしてみよう。

 天理のフッカー島根一磨(4年)が前半3分、ゴール前のラインアウトのサインプレーから、ブラインドサイドでボールを受けて先制のトライ。作戦というより、あまりにもタイミングがうまくあい明治デイフェンスがどうしたんだろうと天理は戸惑いを感じたかもしれない。

 ただそれが逆に何かのチェーンが外れたかのように前半戦はボールを支配できない。逆に前半7分に明治WTB山崎洋介(3年)がトライ、そして22分に素晴らしサインプレーでWTB髙橋汰地(4年)がトライした。後半に入りペナルティゴールを決め、天理のお株を奪うフォワードのフッカー武井日向(3年)のトライで天理は17点差をつけられた。

 やっと後半29分に力強い突破でキャプテン島根がトライを奪うと、その6分後にも攻撃の起点となってゴールポストに集団でトライにつなげた。苦しい場面で力をやっと出せ点差が開き、吹っ切れるしかないとアタックに切り替えられたことが終盤の猛反撃に繋がったが、時間ギリギリの最後の渾身のアタックもフィフィタのノッコンがあり試合終了。

明治は天理のフォワードを上回る、素晴らしい非中央型意思決定チームになった。だからラグビーは面白いスポーツということをよりアピールしたい

 明治の15人は飛び上がって喜び、天理はがっくり膝をついた。まあ、これが青春かとも脳裏をかすめたが。明治はキャプテンでハーフ福田健太(4年)とフルバック山沢京平(2年)のコンビネーションが良いリズムを作り出したような気がする。つまり野球で言えばセカンドとセンターの縦のラインがしっかりしているとディフェンスが安定していると同じではないだろうか?

 天理大の小松監督は「ファイナルに勝つ何かが足りなかった。明治は去年悔しい思いをした。我々は7年ぶりの決勝。そこに差が出た」と悔やんだが、この日のFWの平均体重は97キロ。よくがんばった。明大の田中監督は「去年は決勝戦に行って満足した。今年のチームは本気で日本一を取らないといけないと思った」再建を果たした田中監督の指導者として最も影響を受けたのが、エディー・ジョーンズ前日本代表ヘッドコーチだ。昨年2月にはイングランドを訪ね、「準備の重要性を知り、不測の事態に対応できる」ことが大切だと再確認。互いにバランスのとれた好チームで、あいたスペースにボールを動かし、仕掛けて、激しくぶつかり合う質の高い試合だった。来年以降はより分析するエンジンが多様性を持ち、AIによるデータを使った戦法が成立することだろう。

天理はこの決勝を実に面白くした。王者帝京を破ったことは一つの歴史のカーテンを開いた。オールジャパンもぼやぼやしていてはならない。元エディジョーンズ日本監督も日本を暖かく見守る。それは日本ラグビーの魅力なのだ。きっと新しい進化するラグビーを2019年ワールドカップに示してくれることだろう

 ラグビーにおけるブロックチェーン的思考は今までの組織のありようを変えていく力があり、自律・分散・協調が素晴らしいヒントになるかもしれない。もともと英国の中高一貫のエリート学校で、現在のラクビーに近いフットボールという競技が行われてそのラグビー高のエリス少年が、反則行為であるボールを持って走ったことで始まったラグビーは新しい時代を迎えた。

  
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