Washington Files

2019年1月21日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 トランプ米大統領は「ロシア疑惑」に加担したか――ロシアのプーチン政権による2016年米大統領選への介入疑惑とトランプ人脈との関わりについて1年半以上にわたり捜査してきたロバート・モラー特別検察官の最終報告書が、早ければ来月中にもまとまるとの見方も出始めている。その内容次第では大統領の命取りにもつながりかねないだけに、早くもホワイトハウスでは、「大統領特権」をタテに報告書をいかに極秘扱いにとどめるかを含め、専門法律チームによる入念な対応策の検討に着手した。

(LPETTET/Gettyimages)

 トランプ大統領およびトランプ陣営をめぐるさまざま疑惑については、今月から民主党が多数を制することになった米下院の情報特別委員会はじめ関連各委員会が着々と、本格究明に向け公聴会開催や政府当該機関に対する重要資料提出命令などの準備にかかっている。

 しかしこれとは別に、2017年7月以来、独自に極秘捜査を進めてきたのが、ベテラン捜査スタッフ百数十人を抱えるロバート・モラー特別検査官チームだ。

 これまでの米主要紙報道を総合すると、モラー特別検察官チームによる捜査は主として二つの側面から行われてきた。

 すなわち、一つは、大統領本人あるいは親族や側近たちがロシアによる米大統領選介入を事前に知った上で、これに関与あるいは協力したかどうか(共謀容疑)。そしてもう一点は、大統領がロシア疑惑問題を捜査中だったジェームズ・コーミーFBI長官(当時)を途中解任しただけでなく、同特別検察官の捜査を妨害、中断させようとした疑い(司法妨害容疑)についてだ。

 まず、共謀容疑については、同捜査チームが最も重視してきたのが、前回米大統領選挙期間中の2016年6月9日、トランプ選対本部が置かれていたニューヨーク・マンハッタンの「トランプ・タワー」内で行われたトランプ氏の長男ドナルド・ジュニア氏らトランプ陣営最高幹部とロシア側関係者との極秘会合だ。

 この会合自体はその後、大統領当選後、マスコミに暴露されることになったが、ドナルド・ジュニア氏は会合の目的をどう説明するかについて、外遊中だった大統領に急遽連絡をとり、指示を仰いだ。これを受けてトランプ大統領は帰国途中のエアフォース・ワンの機中で自ら「会合はロシアからの養子縁組問題を協議するためだった」との虚偽の説明文を作成、ドナルド・ジュニア氏に伝えた。

 しかしその直後、ニューヨーク・タイムズなどの追及により、会合の実際の目的は、ヒラリー・クリントン民主党候補(当時)に関しロシア諜報機関が集めた「汚れた情報」を共有するためだったことが明らかになり、ドナルド・ジュニア氏ものちにこの事実を認めた。

 問題はなぜ、わざわざ大統領が会合の本当の目的を隠し、虚偽の発表を息子にさせたか、という点にある。

 モラー特別検察官側は、この点を突破口にして、トランプ氏およびトランプ陣営の最高幹部が選挙期間中から、ロシア側と結託し、クリントン候補の当選を阻止するための周到な工作活動に関与したのではないかとみて、捜査を続けてきた。

 同秘密会合にはトランプ陣営側から、当時の選対本部長だったポール・マナフォート氏も出席していたが、同氏はすでに別の容疑で起訴されており、トランプ・タワーでの秘密会合も含め、トランプ氏本人がロシア側と何らかのかかわりを持ったかどうかについても、すでに厳しい尋問を受けているとみられている。

司法妨害捜査結果

 二つ目の司法妨害捜査結果も、大統領にとってかなり厳しい内容になりそうだ。

 この点に関し、大統領は就任直後の昨年1末、ロシアの米大統領選への介入疑惑を捜査中だったコミーFBI長官をホワイトハウスに招き入れ、上司である司法長官や大統領首席補佐官ら政権首脳を同席させず、二人だけで夕食をとった。席上、大統領は同長官に対し、「大統領への忠誠を誓ってほしい」と語りかけ、暗にロシア関連疑惑捜査で手心を加えることを指示するような態度を見せた。さらにその後も、電話などを通じて、捜査対象となっていたマイケル・フリン元大統領補佐官について「放免できないか」と打診したと伝えられてきた。

 しかし、コミー長官が大統領の意向に従うことなく、捜査を継続しようとしたことから、同年5月9日、ついに同長官の解任に踏み切った。

 しかも、その直後にホワイトハウスを訪問したラブロフ・ロシア外相と駐米大使との会談の場で、大統領はわざわざ、コミー長官解任の事実を伝えたことも明らかになっている。席上、大統領が直面する米露外交問題とは何の関係もない別件をなぜあえてロシア側に伝えたのかについても、いぜん謎に包まれたままだ。

 こうしたことから事態を重く見た司法省のローゼンシュタイン副長官がロシア疑惑本格捜査のため、FBIから独立したモラー特別検察官を任命、独自の徹底捜査を指示し今日に至っている。この間、大統領は同副長官の仕事ぶりに疑義を呈し、特別検察官の捜査の中断をも働きかけるなどしてきた。

 ワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズなどの米主要紙は、とくにこの突然のFBI長官解任について、コーミー氏には執務上重大なミスを犯した事例も過去になく、ロシア問題捜査以外の理由は考えられないことから、1974年「ウォーターゲート事件」の連邦議会弾劾審議でニクソン大統領が辞任に追い込まれた時と同様の、「司法妨害」の罪が適用される十分な根拠になりうる、との専門家の見方を伝えている。

 「ウォーターゲート事件」では、連邦最高裁が事件に関連したホワイトハウスの秘密録音テープを提出するよう命じたにもかかわらず、ニクソン氏が「大統領特権」をタテにこれを拒否したため、米下院の弾劾審議で「司法妨害」の罪に問われた。

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