世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年2月19日

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 2017年8月、トランプ大統領は自ら演説してアフガニスタン戦略を打ち出した。その主たる内容は米軍を増派し、タリバンに聖域を提供しているパキスタンを締め上げ、タリバンを打倒しようとするものであった。しかし、目に見える成果は上がらず、トランプは昨年12月に唐突に米軍1万4000人の半分の撤退を命じた。トランプにとっては我慢の限界に来たのであろう。この撤退の道筋をつけるためにザルメイ・ハリルザド(元アフガニスタン、イラク、国連大使)がタリバンとの交渉を急いでいる。

(grebeshkovmaxim/FabrikaCr/Bumblee_Dee/iStock)

 恐らく、ハリルザドに課せられた優先課題は、何とかして米軍の一部撤退を可能とする体裁を整えることにある。彼は有能な外交官ではあるが、トランプに忠誠を誓っている人物のように思われる。2016年4月、トランプがCenter for the National Interest で選挙戦中唯一の外交政策に関する演説を行った際に司会を務めたのがハリルザドである。彼は、アフガニスタン戦略に関するトランプの上記の演説をベタ褒めする論評をニューヨーク・タイムズ紙に書いたこともある。

 1月にカタールにおけるタリバンとの直接交渉で「枠組み」が合意したとされるが、その内容は「想定される合意の要素」という程度のことらしく、タリバンがこれに同意したという訳ではない。今後、タリバンが取るべき諸措置に同意するとして、それらの措置を米軍の撤退のスケジュールとどのように組み合わせるかは難問である。和平への道筋との確かなリンクが必要ではあるが、どのように工夫しても撤退の開始はアフガン政府を危険に晒し情勢を混乱させるであろう。タリバンは米軍を撤退させるためなら米国の要求に何でも応じるかも知れない。後で約束を破っても米軍が戻って来ることはないだろうという正確な計算もするであろう。米軍が撤退を始めれば米国の圧力があってNATO主導の下で他国が展開している部隊(米国以外にNATOの加盟・非加盟国が8000人強の部隊を派遣している)が浮足立つことは間違いない。米軍の存在が小さくなれば彼等自体の安全がそれだけ危うくなる。

 米国にとってのアフガンにおける戦争目的は、アフガンが国際テロ組織の聖域にならないよう措置することにあった。現在、ISの支部が東部山岳地帯に立て籠もっている。戦争の膠着状態を打破出来ない状況で、止むを得ないこととは言え、アフガニスタンがアルカイダやISなど国際テロ組織の根城にならないことを米国がテロ組織と認定するタリバンが保証することの見返りに米軍を撤退させるというのだから、奇怪と言えば奇怪である。しかし、それしか撤退のための体裁を整える手掛かりがない。

 ワシントン・ポスト紙の1月28日付け社説‘The Trump administration’s tentative deal with the Taliban could return Afghanistan to chaos’は、米軍のアフガニスタンからの性急な撤退によって、これまでに米国が多大の犠牲を払って成し遂げた成果を無にしてはならない、と述べている。これに対し、ニューヨーク・タイムズ紙は、2月3日付で‘End the War in Afghanistan’と題する長文の社説を掲載し、米国とNATOの部隊の撤退を今年中に始めるべきことを主張している。同社説は、オサマ・ビン=ラディンを裁くという初期の目的は達したが、自立出来るアフガン政府を作り国民を保護するという目的は達成出来ないかも知れないという残酷な真実を直視すべき時であると述べている。どうやらトランプ政権はその方向に動いている。                                      

  
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