チャイナ・ウォッチャーの視点

2019年3月19日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

中国の対米政策・経済政策の失敗

 習近平氏の権威低下と李克強氏の復権の背景には、米国の中国に対する強い姿勢がある。2018年前半まで、紆余曲折を経ながらも、習近平氏は全ての権力を掌中に収めることに成功しつつあるかのように見えた。しかし、米国企業との取引を禁止されたZTEが倒産の危機に陥り、米中双方が追加関税をかけあって貿易戦争が激化すると、中国経済はダメージを受け始める。この頃から、習近平政権に対する批判が出始める。最初は、習近平氏の側近たちに対して、対米政策や経済政策の失敗を理由に非難が始まり、年末には習近平氏本人にも批判が出ていると言われた。

 習近平氏の権威が落ちることによって、経済政策に関する権限も取り上げたはずの李克強首相および政府側に行動の余地が生まれたのだと考えられる。しかし、習近平氏も経済刺激策を認めざるを得なかっただろう。何しろ中国は、何が何でも自らの経済を発展させなければならないのだ。米国の圧力によって企業の業績に悪影響が出るのであれば、政府が中国経済を支えるしかない。

 そして、米国の経済的圧力は、より強くなる。2018年8月にトランプ大統領が署名して成立した国防権限法は、中国通信機器大手のファーウェイとZTEならびに監視カメラ大手など、中国5社から政府機関が製品を調達するのを、2019年8月から禁じるとした。また、2020年8月からは5社の製品を使う企業との取引も打ち切る。

 これは、世界市場を二分化する試みであるとも言える。米国と商売したければ中国と縁を切れ、ということだからだ。日本企業も踏み絵を踏まされることになる。

 米国の国防権限法2019には、輸出規制を強化する輸出管理改革法(ECRA)と、外国投資リスク審査近代化法(FIRRMA)とが合わせて盛り込まれている。米国は、中国を念頭に置いた技術流出防止を理由に、貿易および投資といった経済活動を法的に規制する動きに出ているのだ。

 国際的な市場を政治的・法的手段を用いて二分化する試みは、米中新冷戦を構造化する動きであるとも言える。冷戦とは、二国間の軍事力による直接対決を避け、他の手段によって、自らの優勢と敵の劣勢を創り出そうとするものであり、米国は、この冷戦を米国に仕掛けたのは中国であると認識している。

露骨な世論工作が米国の警戒感を高める

 中国は、米国が必ず中国の発展を妨害すると信じ、これを防止するため、米国の対中認識が悪化しないよう、米国内において積極的にパブリック・ディプロマシーを展開してきた。しかし、中国の露骨な世論工作は米国の警戒心を高める結果となり、中国の第5世代移動通信システム(5G)支配の意図が見え始めると、米国議会や経済界もこぞって対中強硬姿勢を強めた。

 5Gの利用は新しい産業革命を生むとも言われている。桁違いの情報量に基づいて、自動運転や遠隔手術などのIoTの精度が画期的に向上するほか、現在では思い付きもしないような利用がされるはずだ。そして、歴史を見ても、産業革命を起こした国が、世界の覇権を握ってきた。イギリス、日本、そして現在は米国だ。

 中国は、イギリスで起こった産業革命によって、世界の経済的覇者の地位を失った。それだけではなく、アヘン戦争に敗れて以降の100年間、産業革命の恩恵を受けた欧米列強に屈辱を与えられ続けた。中国は、今こそ、5Gを支配して、欧米から覇権を取り戻すべき時だと考えているのだ。

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