3月5日から15日の間、開催された全国人民代表大会(全人代)は、5日の開幕直後から、中国国内の政治不安を露呈した。習近平総書記を中心とする中国共産党中央の方針とは必ずしも一致しない経済政策が打ち出されたのだ。
5日に李克強首相が行った政府活動報告では、冒頭の2018年を回顧する部分で、「中米経済貿易摩擦により、一部の企業の生産経営などが影響をこうむった」と述べられた。通常は自らの成果を強調する報告の中で、控えめではあっても、否定的な内容を述べるのは異例のことである。
また、李克強首相を抑え込み、経済政策も対米政策も習近平総書記一人が掌握してきたことを考えれば、この一文は、これまでの経済政策および対米政策に誤りがあったと習近平総書記を批判するものであるとも受け取れる。抑え込まれていた李克強首相が、習近平総書記を批判し、自らの経済政策を表明するまでに中国国内での権威を回復している可能性を示唆するものなのだ。
李国強の緊張、習近平の憤り
続いて、政府活動報告は2019年の経済目標として、「財政赤字のGDPに対する比率は2.8%とし、18年の予算より0.2ポイント引き上げる」として、2019年の財政支出を6.5%増の23兆元強とした。同時に、大規模な企業向けの減税、電気料金の平均10%下げ、中小企業向けの通信料の引き下げを掲げ、併せて、社会保険料負担の大幅軽減を打ち出し、年間で企業の税負担と社会保険料の負担を2兆元弱(2兆元は約33兆円)軽減させるとした。
さらに、鉄道投資8000億元(約13兆円)、道路・水運投資1兆8000億元(約30兆円)を達成し、交通や災害対策などのインフラ投資にさらに力を入れるとし、次世代情報インフラの整備を強化し、昨年より400億元増やして5776億元(約9兆5000億円)を投資するとした。極めて大きな景気刺激策であると言える。
実は、中国の中でも、習近平総書記を中心とする共産党中央と李克強首相が代表する国務院(政府)の経済政策はほとんど正反対である。習近平政権は財政再建を目指してきたが、国務院はインフラ投資等の景気刺激策の拡大を主張している。政府を代表して李克強首相が行った政府活動報告は、共産党中央の、すなわち習近平総書記の経済政策を否定するかのうように見受けられた。
政府活動報告を行っている最中に李克強首相の顔に汗が吹き出し、それを聞いている習近平主席は、終始、不愉快そうな仏頂面をし続け、参加者から拍手が起こる場面でも拍手をしなかった。こうした二人の様子を、習近平氏に挑戦状を叩きつける李克強氏の緊張と、自らの相対的な権威低下を象徴するライバルの復活を見せつけられた習近平氏の憤りとして捉えるならば、非常にドラマチックな場面であったといえよう。