田部康喜のTV読本

2019年4月24日

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田部康喜 (たべ・こうき)

コラムニスト

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

(scyther5/iStock/Getty Images Plus)

 「働き方改革」に関するさまざまな法律が4月1日から、まず大企業に適用を開始した。残業は月45時間、年360時間を原則として、臨時の特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間を超えてはならない。有給休暇については、使用者は年間10日以上の年次有給休暇を与えている労働者に、5日は時季を指定して与えなければならない。

 TBS「わたし、定時に帰ります。」は、こうした「働き方改革」を背景として、WEB制作会社で部下を抱えるディレクターとして働いている、東山結衣(吉高由里子)が奮闘するドラマである。タイトルを社内で正々堂々と主張して、仕事を続ける結衣の前にさまざまな壁が立ちはだかる。いったい誰が変わらなければならないのだろうか。

 湊かなえ作品のTBSドラマ化のヒット作「リバース」(2017年)、「夜行観覧車」(2013年)をてがけた、脚本・奥寺佐渡子と清水友佳子のコンビは、軽妙なタッチで、現代の社会問題に迫っている。

「就職氷河期」世代に「売り手市場」世代、
「会社人間」世代のマネジメント層も

 第1話(4月16日)が織りなすエピソードによって、結衣(吉高)の過去が明らかになる。「就職氷河期」の就職戦線を勝ち抜いて大手旅行代理店に入った結衣は、先輩からの指導もないままに「急げ、急げ」と、働かされ残業も月100時間超えが当たり前で、有休をとる暇もなかった。「病気やけがをすれば、休めるなぁ」と思っていたのが現実となり、入社半年後に階段から転げ落ちて、頭を打って意識不明の重体になった。

 意識が戻ったときに、両親から「危篤だった」と聞いて、「もう無理はしない」と決めたのだった。その後、面接を受けた100社目で合格したのがいまのWEB制作会社だった。「会社のために自分があるのではない。自分のために会社があるのだ」という社是を抱える社長に、面接で「わたし、残業はしません」といって笑われた。

 「就職氷河期」は、若者たちの心に大きな傷を残した。その世代はいま、職場で「売り手市場」の新人たちと向き合っている。

 結衣(吉高)と同じディレクター職の三谷佳菜子(シシド・カフカ)も「就職氷河期」に、現在の会社が吸収合併したWEB会社に就職した。定時に帰る結衣のチームとは対照的に三谷のチームは、終電間近まで残業を強い、自分も会社に泊まり込む。小学校以来、休んだことがないという三谷も、体調を崩して風邪の咳が止まらない。新人の小泉咲(ついひじ杏奈)にも厳しく指導にあたって、咲は辞めてしまう。彼女は、三谷が信頼して明かしていたPCのパスワードを使って、新しいパスワードを設定してPCが使えないようにした。

 「働き方」は、世代論でおおざっぱにくくるのは、ちょっと乱暴である。しかし、「就職氷河期」のなかで就職戦線を戦った若者たちは、会社に必死に自分の場所を求めて働いてきたのも事実だろう。「売り手市場」の最近の若者たちとは、溝がある。さらに、マネジメント層には、いまだに残業をいとわない「会社人間」世代がいる。

 三谷と結衣が働く部の新任の部長・プロデューサーである、福永清次(ユースケ・サンタマリア)もそうしたひとりである。PCを使えなくなった三谷に、新人の咲を探し出して、土下座をして謝って、パスワードを聞き出すように指示する。システム部門に依頼して、新しいパスワードを解除してPCを使えるようにすることは拒否する。情報管理に甘い上司というらく印を押されるのを避けるためだ。

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