田部康喜のTV読本

2019年1月10日

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田部康喜 (たべ・こうき)

コラムニスト

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

 NHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」(1月6日スタート)は、日本が初めて五輪に参加するストックホルム大会直前の明治末と、1964年東京五輪の開催が決まる昭和の高度経済成長時代を背景として、いきなりクライマックスを見せた。ストックホルム大会の代表となったマラソンの金栗四三の登場と、64年東京大会誘致が決まったミュンヘンにおけるIOC総会である。

 脚本の宮藤官九郎の代表作になることが決まった瞬間でもある。宮藤自身は創作活動の転機となった作品としてこれまで、連続テレビ小説「あまちゃん」(2013年・のん主演)と、映画「中学生円山」(同年・草彅剛主演)をあげてきた。今回の作品は、時空を超えた壮大なドラマとして、「クドカン」の新たなページに加わる。

(EvrenKalinbacak/iStock/Getty Images Plus)

 2020年東京五輪は、開催まであと1年余りを残すのみなのに、列島の盛り上がりが欠けている。国立陸上競技場の設計変更やシンボルマークの盗用疑惑など、準備レースは最初からつまずいた。そもそも、なぜいま五輪なのか、人々はいまだに腑に落ちていない。

 それは、20年東京五輪が人々の胸を打つ「物語」をいまだに語っていないからだ。大河ドラマ「いだてん」はおそらく、その空白を埋めることだろう。実は、競技施設や酷暑対策などよりも、五輪が成功するためには「物語」が大切なのである。「クドカン」もそれを十分に意識しているだろうし、重要な役割を「クドカン」に委ねた制作陣に敬意を払いたい。

大会にこぎつけるまでの苦闘のドラマが予想される

 1959年5月のミュンヘンにおけるIOC総会に60年東京大会の開催がかかっていた。ライバル都市との最終投票を前にしたプレゼンテーションを担当するはずだった、外務省の官僚が省内の運動会でアキレス腱を断裂し、急きょ、代役に立ったのは外交評論家の平沢和重(星野源)だった。誘致を決定づけたと伝えられている平沢のプレゼンは、日本の小学校6年生の教科書に五輪についての記述があることから始まる。「オリンピック、オリンピック、オリンピック、世界の人が世界の旗をもって集まる……」と。そして、いまこそアジアで開催されるべきだ、と説くのである。

 60年五輪の記録映画である「東京オリンピック」(1965年、市川崑監督)では、ギリシャで採火された聖火が、アジアで初めての五輪を祝うかのようにイスタンブールからイラクやイラン、タイなどの諸都市でランナーたちによって引き継がれる映像が美しい。

 五輪招致の中心人物となったのが、朝日新聞の役員から、日本水泳連盟会長などを務めた田畑政治(阿部サダヲ)である。プレゼンテーションをする外務官僚が負傷してあわてて、火をつけたたばこを逆に口に当てて熱がる仕草がおかしい。阿部サダヲはいうまでもなく、クドカン組の常連ともいえる俳優である。「木更津キャッツアイシリーズ」(2003年・2006年)や「謝罪の王様」(2013年)のクドカン脚本の演技で印象に残る。

 60年東京大会の招致が決定した文書を持って、会場から飛び出してくる田畑(阿部)は、ドラマのひとりの主役である。大会にこぎつけるまでの苦闘のドラマが予想される。

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