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2019年4月26日

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馬場未織 (ばば・みおり)

日本女子大学大学院修了後、建築設計事務所勤務を経て建築ライターに。2007年から平日は東京、週末は千葉県南房総市の里山の二地域で居住する。田舎暮らしなどをテーマに執筆活動を展開。南房総の里山と都市に暮らす人をつなぐNPO法人南房総リパブリックの理事長も務める。著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

 前回の記事では、二拠点居住というライフスタイルのメリットとデメリットを比較してみた。二拠点生活をしようかしまいか検討中のタイミングでは、シミュレーションにもとづいて価値を引き比べるのも大事なステップだろう。勢いでうっかり始めてしまってから「しまった!こんな落とし穴があったか」と臍(ほぞ)を噛むことがないよう、ネガティブチェックを重ねるのは順当だと言える。

斜面の草刈りはことさらしんどい。ただ、やればやるほど上達する(筆者撮影、以下同)

“恋”が“愛”に変わるその時から、二拠点生活の真の価値が見えてくる

 ……などと、まことしやかに話す舌の根も乾かぬうちに言ってしまうと、実は筆者は、腹の中で全然違うことを想像している。「損得計算をするくらいの温度感だったら、まァ、実際に行動にうつしたりしないだろうなあ」といったことだ。

 不便なく暮らしているのにもかかわらず、わざわざもうひとつ住む場所をつくり“二拠点生活”などという風変わりな暮らし方を始める時とは、理屈を超えた情熱が宿った時である。それは、価値判断などぽーんと飛び越えるような“恋”に落ちた瞬間とも言える。

 どんな恋をするかは、その人次第。

 わたしの場合は、思い描いていた田舎暮らしの斜め上を行く里山風景に出会ってしまった瞬間が、それだった。「この土地で暮らせるなら、どんな苦労も厭わない」と古びた演歌のような心持ちになった。

 人によってそれは、お隣さんが滅法魅力的だとか、夢のツリーハウスがつくれる裏山があるだとか、サーフィンのポイントまで歩いて行けるだとか、さまざまあると思う。

 ただ、ご存知の通り、恋は長くは続かない。

 恋は、時間の経過とともに形を変えていくのである。

 まともな恋愛の場合、それは愛に変わる。刺激によって心が激しく突き動かされることは少なくなっても、しみじみと大事に思い、分かち難い存在となる。その時に自分に残ってくるものこそが、本質的な“二拠点居住の価値”である。
 長い期間二拠点居住を続けている中で実感するのは、このライフスタイル自体が自分と一体になっているということだ。「毎週末、南房総で暮らす」というただそれだけのことではあるが、おそらくこの暮らしで、人生も人格も変化した。

 そこで今回は、二拠点生活が深まることによる自身の人生の変化の一部を紹介する。さらっと振り返ってみるだけでも、この12年半で、検討段階の予想にはまるで収まりきらない多種多様な影響を受けてきたのだと気付く。

 前編では、自然と関わりを持つ暮らしをすることによって得られた変化について触れてみよう。

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