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2019年5月9日

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イランのハッサン・ロウハニ大統領は8日、2015年に締結した核合意について履行の一部を停止したと表明した。アメリカが1年前に核合意から離脱したことへの対抗措置とみられる。これに対し、ドナルド・トランプ米大統領は同日、イランとの鉄鋼の取引も経済制裁の対象とする大統領令に署名した。

ロウハニ大統領は、余剰分の濃縮ウランと重水の海外への販売を停止し、国内で貯蔵すると表明した。核兵器開発に使用可能な濃縮ウランの余剰分を輸出することは、核合意でイランに義務付けられていた。

また、核合意当事国のフランス、ドイツ、ロシア、中国、イギリスの各国に対し、核合意に盛り込まれた原油取引と金融決済の約束を果たすか、アメリカによる経済制裁にならうか、60日以内に選ぶよう求めた。各国に対し、アメリカとは一線を画すよう求めた格好だ。合意当事国が約束を果たした場合は、余剰濃縮ウランの海外への販売を再開する方針を示した。

ロウハニ氏はまた、当事国が約束を守らない場合、イランは現在制限されているウランの濃縮を開始するとともに、核合意より前に作られた計画に沿って、同国西部アラクの重水炉の開発に取り組む考えを示した。

一方で、ロウハニ氏は次のように述べ、核合意からの離脱はしない考えも表明した。

「我々は核合意からの離脱を望まない。世界の人々には、今日で核合意が終わりを迎えるのではないと知ってほしい。核合意の枠組み内での新たな一歩だ」

ただ、イランの核問題が国連安全保障理事会に再び付託されるなら、締結5カ国は「断固とした反応」に直面するだろうとも述べた。

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この日のロウハニ氏の表明は、アメリカがペルシャ湾に空母を派遣し、ポンペオ国務長官が予告なしでイラク訪問した直後のタイミングで行われた。

「イランは根本的に行動を改めるべき」

一方、アメリカのトランプ大統領はこの日、イランに対する経済制裁の対象に鉄鋼の取引も加える大統領令に署名した。鉄鋼業は石油に次ぐ、イラン第2位の輸出産業だ。鉄、鋼、アルミニウム、銅が制裁の対象となる。

トランプ氏は、「今日の大統領令はイランの輸出の10%を占める工業用金属の輸出を対象とするものだ。諸外国に対し、イランからの鉄鋼の輸入はもう認められないことを知らせる内容だ」と述べた。

また、「イランは根本的に行動を改めない限り、さらなる措置に直面することになる」と加えた。

同時にトランプ氏は、「いつの日かイランの指導者たちと会い、合意を形成したい。そしてこれが非常に重要だが、イランにふさわしい未来を与えたい」と述べ、イランとの交渉に前向きな姿勢も示した。

米経済制裁でイラン経済は苦境に

包括的共同作業計画(JCPOA)と呼ばれる核合意は、イランの核開発計画を制限する目的で、同国に対する経済制裁の緩和と引き換えに2015年に締結された。

しかし、この合意を強く批判する米トランプ政権は昨年、核合意から離脱。イランに対する経済制裁を再発動した。以降、イランとアメリカは緊張状態が続いている。

アメリカの経済制裁の下、イランの経済は苦境に陥っている。イランの貨幣価値は史上最低レベルに下落し、年間インフレ率は制裁前の4倍に上昇している。

欧米はイランを批判、中国は米を非難

イランの核合意の履行一部停止の表明について、イギリスのジェレミー・ハント外相は「歓迎しない」と述べ、イランに対して「さらに状況を悪化させる行動」を控え「約束を守る」よう求めた。

ハント氏は「イランが核合意を順守しなくなら、もちろんその報いを受ける」と述べたが、核合意は支持し続けるとの考えを示した。

ドイツのハイコ・マース外相は「核合意を堅持する」との立場を表明し、核合意はヨーロッパの安全保障にとって重要だと述べた。

フランスのフロランス・パルリ国防相は同国メディアで、核合意の効力維持に欧州各国は全力を尽くしていると明らかにした。ただし、イランが合意を守らない場合は、経済制裁を課す可能性もあると述べた。

ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は、全ての当事国に義務の履行を求めた。その上で、欧米の当事国は義務の履行から「注意をそらそうと」していると批判した。

中国は、イランに対するアメリカの一方的な経済制裁に「断固として反対する」との立場を示し、対話の必要性を強調した。

アメリカのティム・モリソン大統領特別補佐官は、今回のイランの行動を「ヨーロッパに対する核の脅迫に他ならない」と批判。ヨーロッパの当事国にイランとの貿易を進めないよう求めた。


<分析>ヨーロッパにとって大きなジレンマ――ジョナサン・マーカス、BBC防衛問題担当編集委員

イランは難しい均衡を実現しようとしている。核合意で課されたいくつかの制約に対抗しつつ、合意からの全面離脱は避けたいのだ。

今回の動きは警報であると同時に警告でもある。イランはアメリカが再び課した経済制裁により、一段と苦しい事態に直面している。

イランは自分たちの苦境改善のため、ヨーロッパ諸国が直ちに現実的な対策をとるよう期待している。欧州からの支援がなければ、イランは核合意(アメリカは1年前に離脱している)におおむね順守するというこれまでの姿勢を、再考しなくてはならなくなるかもしれない。

これはヨーロッパにとって巨大なジレンマだ。ヨーロッパはイラン国民とトランプ政権の板ばさみになっているのだ。イランが核合意の条件を完全に守らなくても、ヨーロッパは核合意を支持し続けられるだろうか。

妥協などあり得ないと、アメリカはおそらく主張するだろう。イランは核合意の条件を順守するか、しないかのどちらかだと。

(英語記事 US raises pressure over Iran nuclear deal

提供元:https://www.bbc.com/japanese/48210341

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