今回のテーマは、「なぜトランプは中国とメキシコを叩くのか」です。ドナルド・トランプ米大統領は中国と関税戦争を行っています。加えて、メキシコ政府の不法移民対策に不満を持っているトランプ大統領は、同国からのすべての輸入製品に対して6月10日から制裁関税を徐々にかけていくと、自身のツイッターに投稿しました。
本稿では現地ヒアリング調査に基づいて、トランプ大統領が中国とメキシコを標的にする本当の理由について解説します。
カギは「雇用」の破壊と「愛国心」の欠如
トランプ大統領は訪日前の5月20日、東部ペンシルべニア州モントゥアズビレで支持者集会を開催しました。現地でトランプ支持者を対象にヒアリング調査を実施したので、彼らの声を紹介しましょう。
50代後半に見える白人女性のジャネットさんは、ピンク色のトランプ支持のTシャツを着て、集会に参加していました。質問をする前に、筆者はまずスーツの襟に着けている日米友好のバッジを見せて、自分が日本人の教授であることを彼女に伝えました。次に、勤務先の大学名と担当科目名を告げました。そのうえで、モントゥアズビレを訪問した理由を説明しました。
なぜそこまでする必要があるのでしょうか。
トランプ支持者は中国と米メディアを敵視しているからです。筆者を信頼してくれたジャネットさんは中国に対する感情を率直に述べてくれました。
「トランプは中国製品に追加関税をかけました。私は賛成です」
ジャネットさんはこう切り出しました。
「(ジョー)バイデンは中国は米国の競争者ではないと主張しました。私は彼の発言に反対です。中国はこれまで米国を利用してきました。知的財産権を盗みました。米国の雇用も奪いました。米国から中国への雇用流出を止めなければなりません。私は中国に進出している企業がベトナムへ移ればいいと思っています」
ジャネットさんは中国との貿易問題に対するトランプ大統領のアプローチはまったく正しいという見解を示しました。
さらに、トランプ大統領の移民政策についても、ジャネットさんに質問を投げかけてみました。そもそもペンシルべニア州はメキシコと国境を接していません。しかもモントゥアズビレは同州の中央に位置しています。にもかかわらず、なぜメキシコとの「国境の壁」建設に賛成するのでしょうか。ジャネットさんは次のように回答しました。
「モントゥアズビレにもメキシコからの不法移民がいます。メキシコ人は米国に来ても、星条旗ではなくメキシコの国旗を振っています。彼らは星条旗を振るべきです」
ジャネットさんにはメキシコからの移民は愛国心が欠如しているように見えていました。
支持者を集めた集会で、トランプ大統領が登場するときの曲は、カントリー・ミュージックのアーティストリー・グリーンウッドさんの「ゴッド・ブレス・ザ・USA」です。この曲は、愛国心に訴えています。
来年の大統領選挙を意識しているトランプ大統領は、前回の選挙と同様、隣国のメキシコを敵視して支持者の愛国心を煽っています。この戦略は今回も有効です。
36年間地元の小学校の教師を務めた白人女性のトランプ支持者の声も紹介しましょう。
「米中は間違った方向へ進んでいました。トランプはそれを修正しようとしています。中国製品に追加関税をかけたので、製品の値段が上がります。しかし今高い製品を買っても、長期的にみて米国に雇用が増えるので、トランプの貿易政策を支持しています」
この白人女性もトランプ大統領の対中政策を肯定的に捉えていました。