2024年5月20日(月)

日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

2019年11月11日

大事なのは「理想」よりも「実利」

 日本と台湾は残念ながら目下国交を有していないが、日台の外交に携わる人たちは多くの知恵を振り絞ってきた。先月22日に執り行われた即位礼正殿の儀への台湾代表の参加も同じである。事前の報道では、台湾は参列しないように扱われてきた。事実、日本政府が前日に発表した外国元首・祝賀使節団の参列者のリストに謝長廷・駐日代表の名前はなかったようである。

 ところが、翌日の即位礼正殿の儀には謝長廷代表も出席した。謝代表が自身のFacebookで写真とともに公開しているので間違いない。これに対し、報道などでは日本政府が『一つの中国』の原則に立つ中国への配慮や、中国の反発を避けるために、台湾側を正式な招待者とせず、来賓として接遇したなどとされている。

即位礼正殿の儀(写真:REX/アフロ)

 事実、謝代表も、当日午前の自身のFacebookでは、皇居前広場で撮影した写真を掲載し「今日は即位礼正殿の儀が行われるため、皇居周辺では交通規制が行われます。台湾からいらっしゃる観光客の皆さんはご注意ください」などと書き込まれていたが(原文は中国語)、自身が即位礼正殿の儀に出席するとは言及していなかった。

 理想をいえば、日本政府が堂々と台湾の代表者を招待することができれば、また事前に明言することができれば最良だろう。しかし、推測の域を出ないが、日台の外交関係者は、台湾側の代表者を出席させるために、あえて積極的に公表しない方法をとったのだろう。中国に対する配慮、という側面もあったにせよ、事前に台湾側の出席が明らかになれば中国が反発することは目に見えているからだ。天皇陛下の御即位という慶事に、外国がクレームをつけてくるはずがない、と考えるのはあまりにも楽観的すぎる。かの国は、自身の主張のためなら他国の慶事を慮るような国柄ではない。

 不本意な部分は日台双方に残るだろうが、外交は理想よりも実利である。たとえ外国元首・祝賀使節団の参列者のリストに載らなくとも、台湾の駐日代表が出席したことは事実である。先月末、東京で「日台貿易経済会議」が開かれ、環境保全分野における交流強化や特許審査の簡素化など4項目の協力文書が締結された。

 日台間に外交関係がなく、中国の妨害も予想されることから、日台が自由貿易協定(FTA)を結ぶにはハードルが高いとされてきたが、日台は確実にひとつひとつの覚書や協定を結ぶことでその成果を積み上げている。この「積み木方式」によって、国家間どうしのFTAにほぼ準じるだけの取り決めを結んでいくことで、日台はあたかも国交を有する国どうしと遜色ない関係を築くことが可能になるのだ。

 皇室と同列に論じることは畏れおおいが、貿易や経済に限らず、外交関係や皇室との関わりにおいても、台湾を実質的な国家どうしと同様に扱っていくことが、日本にとっての国益に繋がるのみならず、台湾から皇室を敬愛する人々の思いに応えることになるのではなかろうか。

連載:日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

早川友久(李登輝 元台湾総統 秘書)
1977年栃木県足利市生まれで現在、台湾台北市在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学卒業後は、金美齢事務所の秘書として活動。その後、台湾大学法律系(法学部)へ留学。台湾大学在学中に3度の李登輝訪日団スタッフを務めるなどして、メディア対応や撮影スタッフとして、李登輝チームの一員として活動。2012年より李登輝より指名を受け、李登輝総統事務所の秘書として働く。

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