2024年5月10日(金)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2021年5月4日

「民主主義サミット」の意義

 何が今回の一般教書演説における「核となるメッセージ」だったのでしょうか。演説の最後にバイデン大統領は、21年1月6日に米連邦議会議事堂で発生した暴徒による占拠事件を民主主義に対する「冒涜」と呼んで強く非難しました。その際、ドナルド・トランプ前大統領には一言も触れずに、民主主義と専制主義の対立に焦点を当てました。

 バイデン大統領は「民主主義が今なお機能することを証明しなければならない」「専制主義が未来を勝ち取ることはない。米国が勝ち取るのだ」とまで言い切りました。「専制主義の脅威から民主主義を守り抜く」という核となるメッセージを発信して演説を締めくくりました。バイデン氏は民主主義の擁護者です。

 一般教書演説の前日4月27日、政府高官とメディアが電話会議を行いました。そこで政府高官は「民主主義サミット」に関する記者団からの質問に回答しました。同高官によると、バイデン氏は世界では専制主義と民主主義のシステムが競争をしていると捉えています。

 民主主義サミットの目的は、米国がリーダーシップを発揮して「民主主義が専制主義や収奪政治よりも優れている」というメッセージを発信することです。もちろん、人権擁護の促進もサミットの目的に含まれています。

「民主主義サミット」開催は実現するのか?

 ただ、民主主義サミット開催には懸念材料があるのも事実です。その1つが民主主義サミット参加国と非参加国の互いの敵意を煽る可能性が高いことです。世界に排他的な「民主国家のクラブ」を作り、ブロック化を促進することに成りかねません。

 さらに、どの国が参加できるのかも懸念材料です。例えば、トルコ、ハンガリー、サウジアラビア、フィリピンは果たして民主主義サミットに参加できるのか、疑問があります。サウジアラビアは米国にとって中東の戦略的同盟国であり、フィリピンは南シナ海における対中国戦略における重要なパートナーです。しかし、人権侵害の面でサウジアラビアとフィリピンを民主国家とは到底呼べません。

 ちなみに、21年4月にワシントンで開催された気候変動サミットにおいても参加国に関する質問がホワイトハウスの記者団から出ました。参加40カ国の中にグアテマラ、ホンジュラスとエルサルバドルの3カ国が含まれていないのは納得がいかないと言うのです。

 バイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領は、気候変動が原因で中米北部「三角地帯」はハリケーンによる甚大な被害を受け、その結果米国とメキシコとの国境に上の3カ国から「子ども移民」が押し寄せていると主張しているからです。ホワイトハウスのジェン・サキ報道官は経済規模を基準に40カ国を選択したと回答しましたが、気候変動と移民問題を結びつけるならば、当然3カ国は招待されるべきでした。

 当初、バイデン氏は「民主主義国家のサミット(Summit of Democracies)」と呼んでいましたが、参加国の問題に対処するために「民主主義のためのサミット(Summit for Democracy)」に名称を変更しました。「民主主義のためのサミット」であれば、非民主主義国家の参加も可能になるからです。とはいうものの、気候変動サミットに続いて、民主主義サミットが年内に開催されるかはまったく不透明です。

  
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