2024年5月13日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2012年12月6日

 A2/ADと言うのは、米軍が西太平洋に展開するのを中国側が妨げようとするのに如何に対抗するかと言う戦術的概念です。そういうことをすれば、米中間の戦闘状態の出現を意味することは容易に想像されるにもかかわらず、いざ戦争となった場合如何にして中国に勝つかと言う対中戦略と言うものは全く欠如し、それを論じることさえ、まだ、タブーになっているのが現状です。

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 今後、対中戦略を考えるとすれば、それはおそらくは、戦術的にはA2/ADを含めた、大規模な経済封鎖戦略でしょう。外部との経済交流が絶たれれば、中国の主要輸出入産業は操業停止を余儀なくされ、大量の失業者が街に溢れ、社会不安を醸し出します。中国の保有している米国債などは、敵性財産として、償還利払いが停止されれば紙くずとなります。

 もう今の中国は、国民が中国共産党を信頼して、穴にこもっても長期戦を戦い抜くというような人民戦争の時代ではありません。上層部の汚職などで一党支配の正統性を失っている中国政府にとって、唯一の正統性である高度成長が止まれば、政府の基盤も危うくなるでしょう。

 追い詰められて、在日米軍基地など、あるいは米本土に自暴自棄的戦略攻撃を試みても、それは真珠湾と同じで、反撃の方が遙かに破滅的であることは明白です。

 イランの場合もそうですが、西側にとっては、経済封鎖が最大の武器であり、ASBは、そうした大戦略の中における効果的な補助手段として考えるべきだと思います。

 もうそろそろ、この筆者が遠まわしに論文で言っているように、対中戦争全体の戦略を考えても良い時機が来ているのではないでしょうか。

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