WEDGE REPORT

2013年3月11日

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 「酷いところは70センチも地盤沈下した。1メートルはかさ上げしないといけない。ここの農地は“基盤整備”の途中だったんだ。震災ですべて台無し。田んぼの栄養分は津波で流れてしまったし」

農業をやりたくてもやれない現状の辛さを語る前田一郎さん

 「その上まだガレキが残ってる。これからかさ上げして、耕して……、農業ができるのは、いったいいつだろう。5年じゃ済まないだろうな」

 こう話す前田一郎さん(53)は、福島県南相馬市原町区小沢(こざわ)で、45ヘクタールの大豆と、20ヘクタールの水稲を栽培していた専業農家である。2005年に会社勤めから農業に転じ、10年には知人と2人で農業法人も設立。大規模化を目指し、11年からは小麦も始めて収益を拡大しようというときに震災に遭った。格納庫は奇跡的に津波を免れ、農機具は全て残ったが、いかんせん農地がない。

3つに分断された市

 南相馬市は06年、3つの市と町が合併して誕生した。北から鹿島区、原町区、小高区といまも住所に旧市町村名を残す。福島第一原子力発電所から約10~40キロに位置し、原発事故後20キロと30キロの同心円で3つに分断された。

大規模化のための基盤整備の途中で被災し使い物にならなくなった用水設備 (奥に見えるのは倒れて放置されたトラクター)

 20キロ圏内に位置する原町区の南端地域(小沢集落など)と小高区のほぼ全域は警戒区域に指定され、住民は全員避難。特別な許可がないと一時帰宅もできなかった。12年4月の避難区域再編で避難指示解除準備区域となり、立ち入りや一時帰宅は可能になったが、避難指示は継続しており、いまだに自宅に夜間泊まれない。居住制限地域とそう変わらない状況が続いている。

 前田さんの言う“基盤整備”とは、農林水産省が進める「担い手育成型基盤整備事業」のこと。6割の農地を大規模農家(担い手)に集約する合意がとれれば、従来の1区画30アールの水田を1区画1ヘクタールに拡大するための基盤整備(農道、パイプラインなどの用排水設備)費用の9割を国が補助する。

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